『僕のソルシエール』僕と彼女と幽霊と......思わず涙してしまうほど心を揺さぶるものの正体

『僕のソルシエール』心を揺さぶるものの正体

 小さな頃に出会った双子の兄妹と、中学校で運命的な再会をした主人公・和飛。けれど、兄の遼はすでに亡くなっていて、妹の遙と和飛にしか見えない幽霊になっていた......。そんな衝撃的な展開から始まる『僕のソルシエール』。今回は、そんな読者の心を大きく揺さぶるものの正体であり、本作の魅力となっている、作中に溢れる“誰かを想う優しさ“について着目したい。

 本作は「LINEマンガ」で大人気連載中で、手掛けるのは2020年に実写ドラマ化され、大きな話題を呼んだ『マリーミー!』の夕希実久先生だ。前作では、ニート保護法と呼ばれるユニークな法律によって結ばれた1組の夫婦の恋愛模様を描いたが、『僕のソルシエール』はきゅんよりも、思わず涙してしまうほどの深い余韻が残る作品となっている。

根底にあるのは妹を想う気持ち

 和飛、双子の妹・遙、そして不慮の事故に遭ってから幽霊となって遙を見守り続ける兄・遼。『僕のソルシエール』は、この3人の交流を通して育まれる、思春期ならではの友情・恋愛・成長を優しいタッチで描いている。

 特に印象的なのは、幽霊となった兄・遼の存在だ。幽霊といっても、彼からはホラー作品のような陰鬱とした空気やおどろおどろしさは一切感じない。なぜなら、彼の根底にあるのは遙を想う気持ちだからだ。遼は、遺された妹が寂しい思いをしないようにと、亡くなった日からずっと遙を見守り続ける。そんな彼の存在をきっかけに、和飛と遥は仲を深めていき、さらに和飛は今まで気づかなかった遙への淡い恋心や、自分の兄妹の優しさや意外な一面を知っていくことになる。

 作中では、遼が「幽霊じゃなくて魔法使いになったんだと思おうかなって」と言うシーンが登場する。まさに彼はこのセリフ通り、この世への未練や依存で溢れた禍々しい幽霊ではなく、みんなの幸せを願い、より良き方向へと導く心優しい魔法使いのように描かれている。幽霊になってから、遙と同じように成長しながらも、妹以外の人からは見えず、食や休息の楽しみもない......。死してなお、時に孤独を感じる生活を送りながらも、優しさに満ち溢れた遼の姿を見ていると、切なさで思わず胸を打たれる。

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