一家揃って異世界転生『田中家、転生する。』に注目! 5月文芸書ランキング

5月文芸ランキング

週間ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(5月10日トーハン調べ)

1位 東野圭吾『マスカレード・ゲーム』(集英社)
2位 逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)
3位 伊坂幸太郎『マイクロスパイ・アンサンブル』(幻冬舎)
4位 伊集院静『もう一度、歩きだすために 大人の流儀11』(講談社)
5位 子日あきすず『Free Life Fantasy Online~人外姫様、始めました~7』(講談社)
6位 上橋菜穂子『香君 上 西から来た少女』(文藝春秋)
7位 猪口『田中家、転生する。4』(KADOKAWA)
8位 浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』 (KADOKAWA)
9位 青山美智子『赤と青とエスキース』(PHP研究所)
10位 上橋菜穂子『香君 下 遥かな道』(文藝春秋)

 5月10日の週刊ベストセラー、1位は、木村拓哉&長澤まさみ出演の映画で話題となった、累計490万部突破のマスカレード・シリーズ第三作。独ソ戦を舞台に描かれていることと本屋大賞受賞で話題となった『同志少女よ、敵を撃て』は1位から順位をさげたが、今しばらく注目は続きそうだ。同じく本屋大賞2位の『赤と青のエスキース』、5位の『六人の嘘つきな大学生』もランクインしているが、今月注目したいのは3位の『マイクロスパイ・アンサンブル』である。

 伊坂幸太郎の作品でタイトルにスパイと入っていれば、おもしろさは確約されたも同然なのだが、本作はその成り立ちもまた興味深い。2015年に福島県の猪苗代湖で開催された音楽とアートのイベント「オハラ☆ブレイク」で配布された、小冊子に載せる短編小説を依頼されたのが事の始まりというだけあって、一編の長さはどれも最大4~5ページ程度で、どちらかというとショート・ショート小説の趣き。だから、というわけではないだろうが、『塔の上のラプンツェル』を思わせる冒頭の「昔話をする女」をはじめ、全体をとおしてどこかおとぎ話の世界にまぎれこんだような雰囲気が漂っている。

 ちょうどこの5月で8年目を迎えた「オハラ☆ブレイク」に伊坂が毎年寄稿し続けた短編は、読み切りの単発で終わらず、主人公たちもともに年を重ねて、物語が少しずつ交錯し、ひとつの群像劇へと仕上がったのが『マイクロスパイ・アンサンブル』。伊坂自身は「4年目あたりで、一冊の本にしてもいいかもしれない、と思い始めました」と綴っているが、よく考えてみれば、数ページにわたる視点をいくつも重ねながら、物語を複雑に交錯させて一つに繋げていくのは、伊坂の得意技である。「オハラ☆ブレイク」が2年目以降も開催されるのが決まったときから、そして伊坂が、せっかくなら次の年も内容が繋がっている方が楽しいだろうと発想したときから、こうして一冊の本にまとまるのは決まっていたような気がする。ただ、フェスに参加するため猪苗代湖に訪れる音楽愛好家たちのひそやかな楽しみを、全国どの地方にいてもおすそわけしてもらえることには、感謝するしかない。伊坂の音楽愛もふんだんに詰まった本作、ぜひお気に入りの一曲を流しながら読んでほしい。

 7位にランクインしたのは「小説家になろう」サイトから生まれたライトノベル『田中家、転生する』の第4巻。ある日、突然の地震で全員一緒にこの世を去ってしまった田中家の面々は、そろって異世界の貴族一家・スチュワート家に転生。最初は、自分だけが転生したのだと思い、素知らぬ顔で別人として暮らしていた彼らが、なぜそれに気づけたかというと、長女の港(35歳OL)→エマ・スチュワート(11歳)が、食事時に突然、点呼をかけたから。田中家では、旅行の際に人数確認の儀式として点呼を行うのが習慣のため、誰かがしかければ考える前に体が勝手に動き「1,2,3,ダー!!」と他人に見られれば赤面必至の応答をしてしまうのである。港の点呼に両親兄弟の全員が応じるのを見て、なにを言わずとも全員が状況を察知。否応なく納得して、改めて家族として再出発することになる……という展開は、あまりに微笑ましくて、ほっこりしてしまう。しかも、飼い猫すら巨大猫に転生して再会できるという、このうえなく最高の〝死後〟である。

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