黒子テツヤ、藤崎佑助(ボッスン)、沢田綱吉(ツナ)……一見平凡な主人公の活躍にカタルシスを感じる漫画たち
底抜けの好奇心と明るさを持ち、覚醒した能力とともに"海賊王”に近づいている『ONE PIECE』モンキー・D・ルフィ、誰よりも優しく、信念の刃で“鬼”を滅する『鬼滅の刃』竈門炭治郎、怒りを原動力に、善悪を超えた存在感を見せる『進撃の巨人』エレン・イェーガー……漫画人気を牽引する、個性的で実力を備えた“目立つ主人公”たち。一方で、一見すると影が薄く、平凡なキャラクターがスポットライトを浴びる人気作は少なくない。華やかさはないが、それだけに多くの読者の共感を呼び、その活躍でカタルシスを感じさせてきた名作たち。本稿では、そんな作品の一部を紹介したい。
『黒子のバスケ』黒子テツヤ
2009年から『週刊少年ジャンプ』で連載が開始され、アニメ化をはじめとする様々なメディアミックスもあいまって多くの読者から親しまれたバスケットボール漫画『黒子のバスケ』。その主人公である「黒子テツヤ」はまさしく“黒子”のような活躍を見せたキャラクターだ。「目立たない」こと自体が個性であり、試合においては自覚的にその能力を使っているが、スポーツ漫画の主人公として非常に珍しいタイプだと言える。
10年に1人の天才が集結した「キセキの世代」の5人をはじめ、華やかでインパクトのあるキャラクターが多く登場する本作。人間離れしたテクニックもあいまって、眩い輝きを放つ登場人物の影となることの多い黒子であるが、コミックス1巻「第1Q(第1話)黒子はボクです」において以下の台詞を残している。
影は光が強いほど濃くなり/光の白さを際立たせる
現に「第1Q」での黒子は自分の存在を悟られないよう仕向けながら巧みなパスを連発し、「火神大我」はじめチームメイトの活躍をアシストした。他のプレイヤーを輝かせる黒子の姿は、きらびやかなキャラクターが多く登場する本作においても確かな存在感を示しており、最終巻まで読んだとき、“黒子”である彼が主人公であることに違和感を持つ読者はいなかっただろう。
『SKET DANCE』藤崎佑助
「マンガ大賞2019」に選ばれた『彼方のアストラ』の作者である篠原健太氏。その初連載作品『SKET DANCE』の主人公である「藤崎佑助(以下、ボッスン)」も一見すると平凡に見えてしまうキャラクターであろう。
人助けを目的とする部活動「スケット団」のリーダーとして活躍するボッスンが平凡に見えてしまうのはなぜか。その背景として、かつて伝説の不良「鬼姫」として名が知られていた「鬼塚一愛」やパソコンを用いて口を開けることなく会話を行う「笛吹和義」など、ボッスンの周りにいる“部員”が個性的であることが挙げられるだろう。スケット団以外にも個性豊かなキャラクターが登場することもあいまって、ボッスンの影は薄くなってしまう。
実際にコミックス3巻「第24話 スケット団漫画化計画」ではスケット団を題材とした漫画を描くために取材が行われたが、漫画家「檜原円太」というキャラクターに集中力が高いことや卑屈であるボッスンの特徴が地味であるといじられる様子も見られた。
ただ作中ではボッスンと親しげに話す人物は非常に多く、公式に行われたキャラクター人気投票(全2回)においてボッスンは1位を獲得するなど、作品内外で親しまれている魅力的なキャラクターともいえる。
コミックス32巻「第285話 ラストダンス-⑥」にて「キミの人助けとは何だ?」という問いに対し、ボッスンは「理解者になる事」、そして「背中を押す事」と話した。理解するため、背中を押すためにボッスンは個性あふれる登場人物の横や背後に立ち、自身を主張するのではなく他者を支え続けた。そんなボッスンの姿は前述した「黒子テツヤ」の姿にも似たものがあるはずだ。