『呪術廻戦』が突きつける、バトル漫画の暗黒面 人間VS人間を描いて新たな次元へ

『呪術廻戦』バトルの暗黒面

 『呪術廻戦』(集英社)の第19巻が発売された。「週刊少年ジャンプ」で芥見下々が連載している本作は、人間の負の感情から生まれた呪霊を祓う呪術師たちの物語。「呪いの王」と恐れられた特急呪物・両面宿儺の器となった少年・虎杖悠仁は、宿儺を滅ぼすために東京都立呪術高専専門学校に編入。伏黒恵たち高専の仲間たちと共に、呪術師として成長していく。

 オカルトバトル漫画『呪術廻戦』は、2020年末のアニメ化をきっかけに大ブレイク。この19巻で、電子版も含む累計発行部数は6500万部を突破した。今年公開された、物語の前日譚をアニメ映画化した『劇場版 呪術廻戦0』は興行収入135億円の大ヒットとなっている。

 もちろん、本誌連載も好調だ。今ではジャンプを代表する看板作品として、安定した面白さを誇っている。物語は第16巻から新章に突入し、現在は呪術師同士が殺し合う「死滅回游」が展開中。バトル漫画として、更なる盛り上がりを見せている。

※以下、ネタバレあり。

 呪術師の日車宏見と接触するため、虎杖と伏黒は死滅回游の泳者(プレイヤー)として、東京第1結界(コロニー)へと潜入する。虎杖は、泳者の甘井凛から日車の居場所を教えられ池袋へ。一方、伏黒は泳者の麗美から日車の居場所を聞き、新宿へ。しかしそこで待ち構えていたのはレジー・スターという呪術師だった。

 死滅回游が本格的にスタートした19巻は、デスゲーム&異能バトルというジャンプ漫画らしい王道の展開となっている。同時に感じるのがバトルの描き方の変化だ。渋谷事変までの『呪術廻戦』は呪術師VS呪霊という「人間と怪物の戦い」に重点が置かれていた。しかし、渋谷事変を経た16巻以降は人間VS人間という呪術師同士のバトルが続いている。その結果『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社、以下『ジョジョ』)のスタンド能力の応酬のような頭脳戦のテイストが強まっており、ユニークなキャラクターと異能力(呪術)が一気に増えたのが面白い。

 たとえば、日車の領域展開「誅伏賜死」は、法廷を作り出して裁判をおこなう術式だ。日車が使役するジャッジマン(式神)は『ジョジョ』に登場するスタンドのような存在で、彼が語る容疑に対して無罪を証明できなければ、呪力が奪われてしまう。これは弁護士の日車ならではの戦い方だと言えるだろう。

 また、伏黒と戦うレジィは、無数のレシート(領収書)を身体に貼り付けており、領収書に書かれた商品を「再契像」することで実体化させることができる。レジィはレシートから包丁、ドローン、大型トラック等を実体化させて伏黒を攻撃し追い詰める。

 雑魚キャラながら、鮮烈な印象を残した黄櫨折は、眼球や歯といった自分の身体の一部を爆発物に変えて攻撃する。切り離された眼球はすぐに再生していたが、治るとわかっていても、あまり使いたくない痛そうな術式だ。

 極めつけは、お笑い芸人の泳者・高羽史彦。能力の詳細はまだ謎だが、子どもの頃に憧れていたお笑い番組のヒーローのコスチュームを模した衣装を身にまとい、自身の笑いに関する哲学を語りながらハリセンで戦う。

 どの呪術師もキャラクターも呪術も個性的で、芥見下々のアイデアの豊富さに感心する。

 同時に、戦略性の高いゲーム的なバトルの中に、これまで本作が積み上げてきたテーマが凝縮されている。それが最も強く現れていたのが、日車VS虎杖戦の裁判バトルだ。「虎杖悠仁は2018年10月31日渋谷にて大量殺人を犯した疑いがある」とジャッジマンに宣告された虎杖は「あぁ俺が殺した」と即座に容疑を認めてしまう。動揺した日車は、刑法39条1項を持ち出し、虎杖の大量殺人は両面宿儺に肉体を乗っ取られ「心神喪失」状態だったため「無実だ」と逆に弁護してしまう。しかし、それでも虎杖は「俺のせいだ」「俺が」「弱いせいだ」と呟く。

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