真面目&濃厚な大人の物語3連発 3月発売BLコミックレビュー『カセイフズ』『ギンモクセイの仕立て屋』『蟷螂の檻』

3月発売BLコミックレビュー

 前年の商業BL界を象徴する作品をファン投票にて決定するBLアワード2022が4月1日、発表された。2021年度のBESTコミック部門で1位を受賞したのは、筆者も「2021年BLコミックBEST10」や「BLマンガ5選」で紹介した『夜明けの唄』だ。

 そして今年もすでに、来年のBLアワードにノミネート&受賞されそうな作品が続々登場している。財布の紐を締める暇がないほどの作品数の中から、今月も筆者が「読めて幸せ」「出会えてよかった」と思った、2022年3月に単行本として発売されたBLコミックを紹介したい。

■2022年1月のレビュー
■2022年2月のレビュー

『カセイフズ』(カキネ/リブレ)

 高校時代の同級生だった真加部颯太と青柳楓が、父子家庭限定の家政夫紹介所で働く日々を描く『カセイフズ』。家事はお手のものだが強面ゆえに子どもへの対応を苦手とする真加部と、子どもとすぐに心を通わせられるものの家事スキルは高くない青柳が、自分だからこその強みをいかし、互いを支え合っていくバディものだ。

 もちろんお仕事バディものとしてだけでなく、ラブストーリーとしての満足度も高い。高校卒業から再会までに10年もの空白がある真加部と青柳。そのきっかけとなった青柳のとあるトラウマが、ふたりの関係性の進展にブレーキをかける。しかし関係性を切り開いていく力もまた、仕事でも発揮している「自分だからこそできることで支え合う」ふたりの姿なのだ。

 また同作は、仕事と依頼家庭に真摯に向き合うふたりを描くことで、読者にキャラクターの性格をしっかりと掴ませる。その性格を知ったうえで読み進められるため、互いが互いを必要としているという説得力を強く感じるのだ。仕事を通して、依頼家庭も自分たちも前進させていく過程に、心がほっこりする一作だ。

『ギンモクセイの仕立て屋』(マミタ/徳間書店)

 開店休業状態の銀座の老舗テーラー「ギンモクセイ」の立て直しに挑む、高林生吹と中村灯生の経営お仕事ラブを描いた作品が『ギンモクセイの仕立て屋』だ。一大決心をし祖父から継いだ店の経営が上手くいかず思い悩んでいた生吹のもとに、一夜を共にしたという灯生がやってきて、店のプロデュースを買って出るところから物語は始まる。

 同作も『カセイフズ』同様、仕事シーンをとても大切に描いている作品だ。潰れる寸前だった店の立て直しという大きな課題に対して、ふたりがどんな施策を打つのかを段階的に見せてくれる。「技術さえあればお客さんは来てくれる」という職人気質な考えを持つ生吹に、灯生の経営視点と圧倒的な行動力が加わることで、店の再生に希望が灯っていく。そして互いの仕事に対する姿勢への敬意と憧れが、恋愛とも深く結びついていくのだ。

 またなんといっても、素敵なスーツ姿を拝める点が魅力であることにも触れずにはいられない。ギンモクセイは簡単には手が出せない高級オーダースーツを取り扱う店だ。だからこそキャラクターが身につけているものの上質感は、ふたりの仕事への誇りを描くうえでとても重要になってくる。スーツや小物のレパートリーも楽しめる一作だろう。


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