ピュア、ホラー、ディストピア……2月発売BLコミックレビュー 『僕らのミクロな終末』『愛日と花嫁』など個性豊かな5作品

 先月から筆者はリアルサウンドブックの場を借りて、毎月「読めて幸せ」「出会えてよかった」と思えるBLコミックを紹介させてもらっている(2022年1月のレビュー)。

 今回紹介するのは、2022年2月に発売された単行本のうちの5作品。ド直球の青春モノから先が読めないSFモノまで、このひと月だけでもジャンルの豊富さを楽しんでいただけるだろう。

『かんしゃく玉のラブソング』(鈴丸みんた/東京漫画社)

 誰よりも近い存在だと自負している幼なじみ同士が、実は恋心を抱いていて気持ちを抑えきれなくなり関係性に変化が起こるという展開は、ラブストーリーの鉄板でありながらも、いつの時代も読み手の胸を高鳴らせてきた。2階の窓で互いの家を行き来するほど近い距離にいる和晃と猛生の幼なじみの恋を描く『かんしゃく玉のラブソング』も、その王道を爽やかに、そして甘く駆け抜ける青春恋愛モノだ。

 幼いころからずっと一緒で、互いのことを知り尽くしているふたり。しかし和晃にとっては隠し通すつもりだった、猛生にとっては想定もしていなかった「(恋愛的に)好き」という感情が、ふたりの日常を揺るがしていく。相手の行動は読めても、自分に向けられた恋愛感情は初体験。そんなはじめてにも近い「相手のわからない部分」と対面し、戸惑うふたりの様子のもどかしさに、心がかき乱されること必至だ。

 また同作は、作者・鈴丸みんた氏の『キューピッドに落雷』シリーズのスピンオフ作品。キューピッドに落雷のキャラクターも登場するため、合わせて読むと和晃と猛生の関係が動き出すきっかけに納得感が増すだろう。

『お憑かれさまです』(日乃チハヤ/竹書房)

 ふたりのすれ違いによって起こる「なんでそうなる~!?」というもどかしさに、トキメキを増幅させられるという人も少なくないと思う。同作も、そんなじれったさが堪能できる一冊なのだが、少々特殊な恋の壁がふたりの前に立ちはだかっている。本作においてふたりの恋の進展を難しくしている正体は、幽霊。霊感を持つ東雲真澄(まっすー)と、異常に霊を引き寄せてしまう御子柴永和(柴ちゃん)の、除霊という名のスキンシップが描かれる。

 まっすーにとっては、あくまで除霊のための接触。しかしその優しく濃密なスキンシップは、本人の知らぬところで柴ちゃんの好意を育んでしまう。当然まっすーは、柴ちゃんから自分に向けられた恋の矢印に気づかない。このふたりのやりとりのかみ合わなさが、読者のハッピーエンドを願う心に火をつける。

 また同作は、作者・日乃チハヤ氏のホラー好きが高じて完成したという一冊。出てくる幽霊の中には背筋に冷たいものが走るようなものも登場し、ちょっとした肝試し感覚も味わえるだろう。

『華麗なるロマンチックメロドラマ』(三坂ニウム/竹書房)

 『華麗なるロマンチックメロドラマ』は、非の打ちどころがない完璧超人の御曹司・下妻史と、その会社の開発部門で働く浅野一晴の、大人の純愛を描いた作品だ。

 見目麗しく、エリートでセレブな史は、いわゆるスパダリと呼ばれる属性に含まれる。この属性はBLにおいて、「抱く」側として描かれることが多い。しかし同作のスパダリ史は、運命の人と「はじめて」を迎えたいと願い、純潔を貫いている。そのため性的に刺激的なシーンはけっして少なくないにもかかわらず、そう思わせない、むしろ純粋無垢な恋という表現がピッタリな作品だった。

 カップルになるまでの序盤のスピード感からは想像できないほど、ふたりは地道に真面目に関係を深めていく。そう感じるのは、史と一晴が互いの気持ちをしっかりと確かめあうのを怠らないからだろう。見ているだけで微笑ましくハッピーになれる、幸せのおすそわけがもらえる作品だ。

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