真面目&濃厚な大人の物語3連発 3月発売BLコミックレビュー『カセイフズ』『ギンモクセイの仕立て屋』『蟷螂の檻』
『蟷螂の檻』(彩景でりこ/祥伝社)
當間家という昭和の旧家を舞台に、主人公の當間育郎とその使用人・深山典彦らが織りなす、ドロドロとした人間関係と恋模様を描いた『蟷螂の檻』。その最終巻である5巻が2022年3月に発売され、約8年の連載に幕を閉じた。
親からは愛されず、遺産相続の権利は異母兄弟の蘭蔵に。にもかかわらず当主代行として事業を成り立たせ、家を守っていかなければならない育郎は、唯一手を差し伸べてくれた典彦への依存を深めていく。そして救いにも見えた典彦の愛情もまた、読み手がちょっと引いてしまうほどの長期計画の狂愛、執着なのだ。
典彦に飲み込まれおぼれていく育郎の危うい艶めかしさと、ふたりの未来がどう考えても明るいものにはならない予感が、「見てはいけないものを見る」に近い読者の好奇心を煽る。
また、横溝正史作品に出てくるような不穏で閉塞的な世界観も見どころだろう。表現をためらってしまいそうなおどろおどろしい人間の愛憎劇を、8年かけて描き切ってくれた彩景でりこ先生に感謝したい一作だ。
大人だって、まだまだ未熟だ
BLコミックにもいろんなジャンルがある中で、筆者的2022年3月のお気に入り作品は、大人たちが主役の物語ばかりとなった。とはいえ、今回紹介した作品に登場する大人たちは皆、成熟している人格者かと言われればそうではないと思う。どの作品にも共通しているのは「助けてくれる人」を必要としている大人の姿だ。その「助けて」の描き方が、ぬくもりに溢れていたり、狂気に満ちていたりとさまざまだった。
2022年の4月から成人年齢が引き下げられ、法律上では18歳から大人とみなされるようになった。とはいえ、何歳になろうと人は未熟なのだと、大人たちが織りなす物語は教えてくれるようだ。