『鬼滅の刃』竈門襧豆子の体に浮き出た“紋様”について考察 “人の心”を失わない両義性を象徴?

『鬼滅の刃』竈門襧豆子の“紋様”を考察

※本稿には『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)の内容について触れている箇所がございます。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)

 先ごろ、好評のうちに全11話の放送を終えた、テレビアニメ『鬼滅の刃』遊郭編。演出面、作画面ともに従来の「テレビアニメ」の概念をはるかに超えた、まさに“鬼気迫る”傑作だったといえるだろう。

 さて、そのテレビアニメ『鬼滅の刃』遊郭編は、吾峠呼世晴による原作の第 9巻から第11巻までのエピソードを主にアニメ化したものである。そこで今回は、同編で描かれた壮絶なバトルの中で、ヒロイン・竈門襧豆子の体に浮き出た、ある“紋様”について考えてみたいと思う。

「遊郭編」で“鬼化”が進んだ竈門襧豆子

 『鬼滅の刃』のヒロイン・竈門襧豆子は、主人公・竈門炭治郎の妹である。彼女はかつて、「鬼の始祖」である鬼舞辻󠄀無惨によって鬼にされたのだが、自力でその「支配」から逃れ、政府非公認の鬼狩りの組織――「鬼殺隊」の剣士になった兄と行動をともにしている(通常は、炭治郎が背負っている木箱の中に体を縮小させて入っているのだが、場合によっては、彼女も鬼の力を出して敵と戦う)。

 なお、その襧豆子の“鬼化”が最も進行してしまうのが、今回アニメ化された「遊郭編」であり、具体的には、「上弦の陸」と呼ばれる鬼のひとり――堕姫に流れる鬼舞辻󠄀無惨の濃い血が呼び水となり、「激しい怒り」に突き動かされた襧豆子は、頭部から禍々しい角を生やし、体に植物の蔓(ツル)と葉に似た紋様を浮き上がらせるのである。[注]

[注]続く「刀鍛冶の里編」でも、襧豆子は同様の姿で戦うが、(竹製の口枷をつけたままだったせいか)「遊郭編」で見せたような“暴走”はしない。

 ちなみに、『鬼滅の刃』に登場する鬼――たとえば「上弦の参」の猗窩座あたりは、彼が人間だった頃の姿を象徴する、罪人の入れ墨に似た幾何学的な紋様を全身に浮き上がらせている。また、対する鬼殺隊の「柱」の多くも、のちに伝説の「痣」を顔や体に発現させるのだが、それは、各人が使う「呼吸法」を連想させるようなかたちをしている場合が少なくない(たとえば、「風柱」は風車の羽根に似たかたちの痣、「蛇柱」は蛇に似たかたちの痣、というように)。となれば、襧豆子の体に浮き出た紋様についても、なんらかの意味があると考えたほうがいいだろう。

襧豆子の体に発現した紋様が象徴するものとは?

 では、彼女の体に浮き出た紋様には、いかなる意味があるのだろうか。先にも述べたように、それは、植物の蔓と葉に似た紋様であった。

 そこで必然的に思い浮かぶのは、『鬼滅の刃』にたびたび出てくるあの「花」の存在ではないだろうか。

 そう、鬼にとっては毒となる「藤の花」だ。

 そのうえで、あらためて襧豆子の体に浮き出た紋様に目を向けてみれば、たしかに、やや記号化されてはいるものの、藤の蔓と葉にかなり近い形状をしていることがわかるだろう(公式ファンブックでの彼女の体の紋様の説明は、単に「葉の紋様のような痣」と書かれているだけだが――)。

 いずれにせよ、鬼でありながら“人の心”を失っていない少女の両義性を象徴する紋様として、これ以上ふさわしいかたちはないといえよう(要するに、藤の蔓や葉に似た紋様は彼女の“魔に抗う意志”を、禍々しい角は“怪物性”を象徴しているのではあるまいか)。さらにいえば、作者は襧豆子の顔を「花」に見立て、その体に蔓と葉の紋様を浮かび上がらせたのかもしれない。

 なお、いまさら説明不要かもしれないが、藤はマメ科の植物であり、節分の行事の例を出すまでもなく、豆には鬼を祓う力があると昔から信じられてきた。つまり、「豆」は「魔滅」という言葉にも通じ、強い意志をもって鬼と戦うヒロインの名前にその一文字が含まれているのは、それなりに深い意味があると考えたほうがいいだろう。

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