逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』や朝井リョウ『正欲』など話題作続々! 本屋大賞ノミネート作10作品を全解説
知念実希人『硝子の塔の殺人』(実業之日本社)は、「硝子の塔」で次々と起こる惨劇の謎を、名探偵と医師が追及するミステリ長編。冒頭の文章で『アクロイド殺し』的結末を予想して読みはじめたら最後、二転三転する物語、無数の傑作ミステリーを下敷きとした、何重にも重ねられた仕掛けにどこまでも翻弄される。一気読みせずにはいられない。
浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』(KADOKAWA)は、グループディスカッションで「君たち六人の中から一人内定者を選出しろ」という酷な課題を突き付けられた就活生の中から、「告発文」を用意した犯人を探せというのが主な筋書きなのであるが、それは導入にすぎない。本当に凄いのは後半部分であって、前半と後半で印象がガラッと変わる、実に優れた青春ミステリー。
『六人の噓つきな大学生』において「月の裏側を地球から見ることは叶わない」という台詞があるが、まさにその「月の裏側」を見つめる作品が、ノミネート作の中で一際異彩を放つ幻想譚、小田雅久仁『残月記』(双葉社)である。感染症「月昂」に冒された男の純愛を描く表題作他、美しい言葉とイメージの連なりで紡がれる奇妙で残酷な物語。あまりにも現実と双子のようにそっくりなものだから、一歩間違えると自分もそっち側に立っているのではないかと思わせるほどだ。
コロナ禍が再燃する現在、単行本数冊を傍らに置き、読書で旅をするのも悪くない。