三浦建太郎はガッツが剣を振るうように漫画を描いていたーー『ベルセルク』第41巻に寄せて

『ベルセルク』41巻に寄せて

 2021年12月24日。三浦建太郎の漫画『ベルセルク』(白泉社)の第41巻が刊行された。

 ヤングアニマルで不定期連載されていた『ベルセルク』は巨大な剣で使徒と呼ばれる怪物と戦う「黒い剣士」ガッツの活躍を描いた物語だ。

 日本を代表するダークファンタジーの金字塔として『ベルセルク』は、国内外の読者から熱狂的な支持を受けていた。しかし、昨年の5月6日に三浦建太郎は急逝大動脈解離で死去。41巻の最後に収録された「朝霧の涙」が作者のペンの入った最後の原稿となってしまった。ヤングアニマル編集部によるあとがき「ファンの皆様へ」によると、今後については「今は未定」だという。

 細かく描き込まれた作画ゆえに執筆速度は遅く、数年に一度しか新刊が出ないこともあったが、物語は着実に前へと進んでいた。この41巻では、ヒロインのキャスカをめぐる物語は大きな節目を向かえ、いよいよクライマックスへと向かう気配が漂っていた。それだけにあまりにも突然すぎる作者の死はとても残念である。

※以下、ネタバレあり。

三浦建太郎『ベルセルク(4)』(白泉社)

 壮大な物語となった『ベルセルク』だが、大きな転機となったのはガッツの過去を描いた「黄金時代」篇だろう。

 傭兵として戦場を渡り歩いていたガッツはグリフィスの率いる鷹の団に入隊し、そこで初めて自分の居場所を見つける。やがてガッツはグリフィスの「横に並べる男になりたい」と思い鷹の団を抜けるが、グリフィスが逆賊として捕らえられたことで鷹の団は追われる身となってしまう。その後、グリフィスはガッツたちによって救出されるが拷問によって身体がボロボロで再起は不可能となる。だが、「自分の国を手に入れる」という夢を諦めきれなかったグリフィスは仲間たちを生贄に捧げる儀式「蝕」をおこない、闇の翼・フェムトへと生まれ変わる。

 生贄となった鷹の団の仲間たちは無数の怪物に蹂躙され次々と命を落としていく。ガッツは片腕と片目を失い、キャスカはガッツの見ている前でグリフィスに強姦された。12~13巻に渡って繰り広げられる「蝕」は「ここまでやるのか?」という地獄絵図の連続で、これまで愛着を持って描かれてきたキャラクターが容赦なく殺されていく姿はショックだった。

 最終的にガッツとキャスカだけは髑髏の騎士に助けられ、「蝕」から脱出するが、常に怪物から命を狙われる「烙印」が刻まれ、キャスカはショックで記憶喪失となり幼児退行してしまう。

 その後、ガッツは復讐のために使徒を倒す旅に出発し、物語は冒頭に繋がるのだが、ここでガッツの過去を丁寧に掘り下げたことで『ベルセルク』の物語は圧倒的な強度を獲得した。同時に「蝕」という圧倒的絶望を描いてしまったばっかりに、簡単に物語を終わらせることができなくなってしまったようにも感じる。

 画に関しても同じことが言えるだろう。ガッツの戦い方は、巨大な剣で敵を一刀両断するという豪快なものだが、その姿を描く三浦建太郎の筆致は繊細で緻密である。

 巻を重ねるにつれ、黒ベタで描いていた部分を細かい斜線の掛け合わせで紙面を埋め尽くす方向へと変わり、一コマ一コマが絵画のような圧倒的な完成度を誇るものに昇華されていった。同時に漫画としても読み進めることもできるという絵画と漫画の魅力がギリギリのところで両立している超高密度の画が展開されていた。

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