キャラクター造形&設定の妙ーー花盛りを迎えた"ラノベミステリ”の新潮流を考察
星海社FICTIONSからは、波戸彼方の『中野森高校文芸部のホームズ&ワトソン』という学園ミステリーも出ている。格好良いから探偵になりたいと訴える女子高生の曲直瀬彰と、文芸部でミステリーを書いている藤堂基子が探偵と助手の関係となって、学園に起こる事件の謎を解いていく。
隣の漫研で共有の落書き帳が消えるという事件でお手並み拝見となった彰は、工事で部室に入れない時間があったことなどを考慮して、犯行が可能な人間を絞り込んでいくオーソドックスな推理を繰り出し、名探偵ぶりを見せる。作家はなぜ書くのかといった創作への原点に迫るエピソードや、BLに百合といった趣味嗜好についての態度を問われる展開もあって、色々な角度から楽しめる作品だ。
米澤穂信の「古典部」シリーズと同じ、学園ミステリーと呼ばれる分野では、「薬屋のひとりごと」シリーズの日向夏も、『迷探偵の条件1』(MF文庫J)という新シリーズを出してきた。18歳の誕生日までに“運命の人”に出会わなければ死んでしんでしまう家系に生まれた少年・真丘陸が主人公。合わせ持った女難の体質でさまざまな事件に巻き込まれる展開の中、行事中の体育館で起こった嫌われ者の教師が首を吊った事件、化学教師が学校内で自殺を試みようとした事件を、アリバイや動機などを元に解決していく。
新しいところでは、綾里けいし『霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない』(ガガガ文庫)がオカルト×ミステリーのミックスで、不思議な読書体験をもたらしてくれる。霊能力を持った家系に産まれながら、“かみさま”と呼ばれる中心的な存在になれなかった藤咲藤花という少女が、持ち前の推理力と少しだけ受け継いだ異能の力を使って猟奇的な事件の謎を解く。
“かみさま”になれないと分かって家族に見捨てられ、従者としていっしょに育った大学生の藤咲朔が繰らすアパートに転がり込んで、普段はニートのように暮らしている藤花のダメっぷり実に愛らしい。そんな藤華が、人を殺して内蔵をえぐり出し、屋上からまき散らす連続殺人事件の犯人像を推理で割り出し、人に恨みを持った霊を呼び出せる能力で犯人を追い詰める時に見せる冷徹な表情とのギャップにそそられる。
特徴的なキャラクター造形と展開で引きつける、ラノベならではの設定を見せつつしっかりとしたロジックを持った推理で読ませるミステリーが、今また増えている状況から、次代の米澤穂信や桜庭一樹は生まれてくるのか。そんな興味を持って、こうした作品を読んでいくのも面白そうだ。