【漫画】空を自由に飛べても良いことはない? 飛行能力を身につけた少年の漫画が切ない

ーー大介とユリの関係にあたたかさを覚える作品でした。創作のきっかけを教えてください。

こんはるか:本作は漫画賞に応募するために描いた読み切り作品です。これまで空を飛ぶことを題材とした漫画を描きたいと思っていたため、本作では空を飛べるようになった大介を主人公として描きました。

 自分は眠るときに空を飛ぶ夢を見ることが多くあります。ただ夢の結末はいつも同じで、最後には空を飛ぶ能力を失ってしまうんです。空を飛ぶ喜びと飛べなくなる切なさを漫画でも描きたいと思い、本作のストーリーをつくりました。

ーー空を飛ぶ夢を多く見る背景にはどんな思いがあるのでしょうか。

こんはるか:小学生の頃、漫画『D.Gray-man』に登場するキャラクター「リナリー・リー」が空を自由に飛ぶ姿に自分は憧れていました。自分がリナリーになってビルとビルの間を飛ぶ夢を見てから、何度も空を飛ぶ夢を見るようになったきっかけだと思います。

ーー好きな子に好きになってもらうのではなく、好きな子を喜ばせたいと願う大介の優しさが光る作品だと感じました。

こんはるか:「空を飛べなくてもいいんだ」というオチをつくりたかったので、自分の欲で空を飛びたいという人物よりも、空を飛ぶことを目的ではなく人を喜ばすための手段として考えるキャラクターがいいなと思い大介を描きました。大介のキャラクターは物語をつくる前から決めていたわけではなく、ネーム(漫画の設計図)を描くなかで自然と人物像が見えてきたのです。

 読者の方からいただいた感想のなかで、ヒロインのユリがいい女性だという声を多くいただきました。いい男性にはいい女性との巡り合わせがあるような、大介がいいやつだからこそ大介の魅力に気づいてくれる人物が現れる様子を描きたいと思っていました。

ーー作中で大介の家族を描いた理由を教えてください。

こんはるか:大介がいいやつだということを表現するために、彼が家族のことを大切にしている様子を描きたいと思いました。大介は自分に対して無欲でありつつ、自分よりも人が幸せになっていることをうれしいと思える人物なんです。お父さんがハゲていることを気にかける姿を描くことで、大介が自分よりも他者を気にしているところを表現しました。

ーーこんはるかさんは恋愛を題材とした漫画作品を多く描かれているかと思います。漫画で表現したいことを教えてください。

こんはるか:自分が漫画を描くなかで人間の感情、とくに愛を表現したいと思っています。恋ではなく、愛なんです。自分になにかを与えてくれるから相手が好きなのではなく、その人の笑顔が見れたら幸せだと思えることとか。恋人に限らず友人や家族など、人に感じる愛情を描くことが自分にとって漫画を描くうえで欠かせないものなんだと思います。

 私は漫画家の柴田ヨクサル先生が好きで、柴田先生が描く作品の共通点は「愛」であると感じています。主人公が誰かをめちゃくちゃ好きになるとか、主人公が誰かにめちゃくちゃ愛されるとか。柴田先生の描くとても濃い愛に影響を受け、愛を持つ人を見ていると現実でも漫画でも幸せを感じるからこそ、自分も漫画で愛を描いてみたいと思っています。

ーー大介の空を飛びたいという願いはこんはるかさんの言う愛から生まれたものだったと感じます。

こんはるか:物語の序盤で描いた小学生の大介は精神的にも子どもだったと思うんです。好きな子からの愛がほしいから彼女を喜ばせたのですが、女の子が自分に対して好意がないと気づいた瞬間に大介の思いは冷めてしまいます。そのあと色んな経験を経て心の広い人になり、高校生になってユリちゃんみたいな子に出会えたのだと思います。

ーー大介を成長させたものはなんだったのでしょうか。

こんはるか:本作ではおばさんが亡くなり、大介は身近な人の死を体験します。また作中では大介のお父さんは登場しますがお母さんは出てきません。実はお母さんも亡くなっている設定なんです。

 死と直面したことがある人って、好きになった人に対しこの人もいつか死ぬということを感じられるのだと思います。自分の人生と他者の人生を天秤にかけたときに、この人と一緒にいたいとか、その人を考えられることが愛なのかなと思いますね。

ーー自身の価値観や思考を漫画として表現する思いを教えてください。

こんはるか:漫画ってめちゃくちゃ手間がかかるし、体も痛くなるし、頭も使うし。漫画って大変だなと作品を描くたびに思います。私は漫画を描くことに対し特別な思いがあるわけではありません。

 ただTwitterでつぶやいたり、文章を書いたり、絵を描いたりなど、自分は表現しないと生きていけないタイプの人間なんだと思います。しゃべるとかではなく、なにかに残したい。漫画は絵だけでなく文章も書けるし、テンポも自由に描けるので、自分に向いている表現方法だと感じています。

 自分は絵の才能はないと思っていますが、漫画作品を描き上げたあとに自分はめっちゃ才能があるように感じられるんです。完成した漫画に対し感想をいただくこともうれしくて。やっぱり自分には1番漫画が向いているなと思います。

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