速水もこみち&dancyu編集長・植野広生が語り合う、キーワード主義では伝わらない“料理の本質”

速水もこみち×「dancyu」編集長 対談

 最新レシピ集『大切な人に食べさせたいおうちごはん』(KADOKAWA)で、これまでの著作以上に独自の料理観を究めた速水もこみち。“料理好き俳優”の域を超え、その探究心はとどまることを知らない。

 今回リアルサウンドブックでは、そんな速水が敬愛する「dancyu」編集長・植野広生氏を迎え、夢の対談が実現した。『日本一ふつうで美味しい植野食堂 by dancyu 公式レシピブック』(プレジデント社)を刊行したばかりの植野氏は本づくりの極意を、速水は料理の美学を惜しみなく語る。ファンの心と胃袋を掴み続ける食の探求者二人による、スペシャルトークを楽しんでいただきたい。(大信トモコ)

「香りを伝える」というのはとても難しい

『大切な人に食べさせたいおうちごはん』(KADOKAWA)

――植野さんは、料理家としての速水さんに対してどのような印象をお持ちですか。

植野:もこみちさんは、食べさせる相手を楽しませたい、ただひたすらに喜ばせたい!と、料理をする目的がすごくはっきりしているのが素晴らしいと思います。僕たち食べ手にとって重要なのは、単に上手に作った料理とか、美味しい料理だけでなく、「その料理でどんな風に感動させてくれるか」ということ。それは料理を作る人にとっても重要なことですが、意外に忘れ去られたり、軽んじられたりしているように思えて。速水さんがそうした重要なイメージをしっかり持っているのは、本当にすごいと思います。

――それでは、速水さんから見た植野さんはどんな方ですか?

速水:以前も番組でご一緒させていただいたのですが、本当に「辞書」みたいな方なんです。

植野:僕の顔、そんなに四角いですか?(笑)

速水:いえいえ、見た目じゃなくて知識がです(笑)。植野さんを特集したドキュメンタリー番組を観たのですが、取材拒否のお店でも何度も通って味を研究したり、食に対する情熱が半端なものじゃない。ましてやご自分でも料理を作るから、食材への熱い愛情を番組や雑誌を通してひしひしと感じるんです。本当に、いつも勉強させていただいています。

植野: YouTubeなどを見ていても、もこみちさんは“香り”をとても大事にされますよね。番組でご一緒した時も、料理が出ると必ず香りを確認していて。

速水:それは、もうクセになっていますね。

植野:それは正しいことだと思っていて、料理は香りと温度とテクスチャーがすごく重要な要素だと思うんです。例えば、本にしてもテレビにしても、香りは見た目では伝えられないじゃないですか。この本では、それをどのように表現しようと思ったんですか?

速水:本や映像を通して「香りを伝える」というのはとても難しいですよね。僕はそこで、パッと見た瞬間にみんなに元気になってもらえるよう、食欲をそそるような色で視覚的に表現したつもりです。そこから、香りについても想像力がかき立てられるものになればと。僕は性格上、カラフルで華やかなものが好きだけれど、料理によっては地味な色の食材のほうが良かったりするので、シックな色の食材も取り入れたりしました。また、僕は切り花が好きなんです。今回は「大切な人に食べさせたい」がテーマなので、エディブルフラワーをたくさん使ってますが、これも香りを想像させるモチーフですね。

植野:それでキッチンに立つニコライ・バーグマン(※現代フラワーデザインの代名詞とも言えるアーティスト)と呼ばれているんですね!

速水:言われたことないですよ(笑)。

速水もこみち

――お洒落な例えですね(笑)。速水さんは今回、写真にもかなりこだわられたと思うのですが、一見するとレシピ本には合わなそうなダークな背景など、それこそ海外の料理本の雰囲気を感じます。

速水:そこは意識しました。料理をメインに、イメージ的には「海外っぽいものができたらいいよね」ということで、海外の料理本を意識したデザインに挑戦させていただきました。

植野:デザインもそうですが、この本がよくできているなと思うのは、カバーの写真でイメージが全部わかるところです。もこみちさんが写っていないページでも、ちゃんともこみちさんの世界が料理に表れている。ご自身が考える、この本で表現した「もこみちさんらしさ」は何ですか?

速水:“皿やテーブルなどを含めた料理”を強く意識しているところですね。レシピ本のコーディネートでテーブル周りを散らかす人って、あまりいなかったと思うんです。

植野:確かに、チーズを振ったものがこぼれていたり、綺麗すぎないから、すごくリアリティがある。

担当編集者:実は、本作はスタイリングも全部、速水さんが手掛けているんです。

「dancyu」編集長・植野広生

――え! 普通はフードスタイリストが入りますよね?

速水:お皿も何もかもほぼ、私物です。38ページのローストポテトは大地を感じさせるように、メインとなる料理の奥に生のジャガイモを置いてスタイリングしました。もともと料理写真を見るのが大好きなんです。

植野:ちゃんと絵画の構図が活きてますよね。制作時のスタイリングについてもっと聞きたいのですが、現場では、「ここはこうした方がいいかも」とフレキシブルに動く感じだったんですか? それとも、絵を全部決めてそれに当て込んでいったのでしょうか?

速水:流れとしてはレシピはもう決まっていて、あとは僕のお皿を並べる時にスタイリングしていきました。僕はその場でパッと思いつくタイプなので、書き上げたレシピ以上のものが現場で生まれることもあります。食材を並べてじっと見ていると「普通に切るのは嫌だな……もっときれいに見せたい。じゃあこうした方が美しいんじゃないかな?」と、途中で切り方を変えることもあります。一度スイッチが入ると、そういうのが止まらなくなるんです。切り抜きで使っている写真も、全部自分が撮影しました。

植野:撮影の時はスイッチ入りっぱなしでガンガンに?

速水:それこそ音楽を流しながら。中華料理を作っているときはチャイナっぽい曲を流して。その雰囲気をみんなで味わいながら作りました。

植野:ここまで自分でスタイリングした本は初めてですか?

速水:ここまで一から手がけた本はないですね。

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