『千歳くんはラムネ瓶のなか』の「このラノ」連覇で考える、明日のラノベの潮流
この1年間のライトノベルを総ざらいする『このライトノベルがすごい!2022』(宝島社)が刊行。文庫部門の第1位に裕夢『千歳くんはラムネ瓶のなか』が2年連続で輝いた。単行本・ノベルズ部門はぶんころり『佐々木とピーちゃん』が「このラノ」ランキング初登場にして第1位を獲得。安定した人気を見せる作品もあれば、急激に広がる作品もあるラノベの“今”が見えるランキング結果になった。
「このラノ」に2つの投票窓口がある。1つはWEBからの投票で、ラノベのファンが好きな作品やキャラクターを選んで推薦する。もう1つが協力者によるアンケートで、たくさんのラノベを読んで感想を書いたり、販売に携わっていたりする人たちが、これから流行りそうなラノベ、ぜひ読んでもらいたいラノベをイチオシする。一般からの投票だけにすると、ベストセラー作品ばかり並んでしまうからだ。
『千歳くんはラムネ瓶の中』は、昨年の「このラノ2021」で協力者ポイントが1番多かった。イケメンでリア充という読者の反感を買いそうな千歳朔が、少女たちの悩みを解決していくキラキラとしたストーリーを、逆に目新しいと感じたラノベ読みたちが強力にプッシュ。WEBランキングの第6位を総合1位に引っ張り上げた。
新しいものに目がないラノベ読みの性質で、翌年はグッとポイントが落ち込むの協力者ポイントの傾向だったが、『チラムネ』は「このラノ2022」でも協力者ポイントで4位に入った。WEB投票では第2位へと躍進し、最近では白鳥士郎『りゅうおうのおしごと!』以来となる総合での連覇を成し遂げた。もともと第6位と支持を得ていたところに、「このラノ2021」での評判が乗って、一般の読者を獲得したと言えそうだ。
そんな『チラムネ』にまたしても苦杯をなめさせられたのが、総合第3位の衣笠彰梧『ようこそ実力至上主義の教室へ』だ。WEBランキングでは何と3年連続の第1位。エリートたちが集う高校に入って、影で天才的な能力を発揮する綾小路清隆のカッコ良さが、ラノベのメイン読者層に千歳朔と同じ憧れを抱かせるのだろう。新しい物好きの協力者も目をそらせない実力を見せつけて、来年こそは第1位を獲得できるか?
一方で、目利きは目利きなりに新作を見つけ出し、WEB投票者を引きずり込みたいと思っている。「このラノ2022」では『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の暁佳奈が電撃文庫から出した新シリーズ『春夏秋冬代行者』を第1位にプッシュして、WEBランキングの第20位を総合第2位へと引き上げた。四季が人間の代行者によって司られた和風の世界を舞台に繰り広げられる恋愛と騒乱のストーリー。「このラノ2022」には作者インタビューも掲載されていて、奥深い世界観の一端に触れられる。