『千歳くんはラムネ瓶のなか』の「このラノ」連覇で考える、明日のラノベの潮流
総合第4位の八目迷『ミモザの告白』も、協力者ランキング第2位という猛プッシュがあって、WEBランキングの30位圏外から大きく引き上げられた。高校生の紙木咲馬にとって幼馴染の槻ノ木汐は、咲馬と違ってスポーツ万能で成績優秀の人気者だったが、心には深い悩みを抱えていた。心と肉体の性別に対する違和感を払おうとして行動に出た汐に向けられる厳しい視線が、LGBTQへの理解が進まない現場の実態を浮かび上がらせる。センシティブな題材をラノベで描こうとしている前向きさが支持された。
角川スニーカー文庫やガガガ文庫といった文庫だけでなく、ノベルズや単行本にも増えているラノベを含めて募るようになったランキングで総合第9位、そして単行本・ノベルズ部門で第1位となったのが『佐々木とピーちゃん』だ。小説投稿サイトからの書籍化というノベルズに多い成り立ちの作品で、2021年1月25日に第1巻が発売されて一気に広がった。
この作品がユニークなのは、ジャンルを1つに絞れないことだ。佐々木というアラフォーのサラリーマンがペットショップで見つけた文鳥は、異世界から転生してきた大魔法使いで佐々木を異世界へと連れていく。だったら異世界転移・転生物かというと、佐々木は現実世界に戻って政府の超常現象対策組織に所属しながら、魔法少女や超能力者と遭遇したりヤンデレの少女につきまとわれたりする。
煮物揚げ物なんでもアリの幕の内弁当を食べているような味わいが、ひとつの設定に飽き足らない読者を引きずり込んでいる感じだ。ミステリーが青春ラブコメとなって異能バトルに発展していった文庫部門第8位の二語十『探偵はもう、死んでいる』も含めて、ジャンルミックス作品が流行りそうな予感。
ラブコメ人気の方も着実に広がっているようで、「このラノ2021」では「冒険へ旅立つ」「異世界で繰らす」といった順だったジャンル別ガイドで9番目に位置していた「ラブがいっぱい」が、「このラノ2022」ではトップに躍り出た。
そこで紹介された作品は実に17作品。ランキングに登場した『チラムネ』や、佐伯さん『お隣の天使さまにいつの間にか駄目人間にされていた件』、三河ごーすと『義妹生活』、燦々SUN『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』も合わせれば、ラノベはラブコメに席巻されつつあるとも言える。
続くジャンルも「微笑みと涙」とで鴨志田一の「青春ブタ野郎」シリーズや、屋久ユウキ『弱キャラ友崎くん』が並び、その次も「百合を咲かせる」で入間人間『安達としまむら』など青春&ラブストーリーが相当数を占めている。ファンタジーやSFがメインで、ミステリーが混じり異世界やVRMMOが舞台の作品こそがラノベと思い込んでいたら、最前線はめまぐるしく移り変わっていた感じだ。
こうなると、次はいったい何が出てくるのかが気になってくる。「このラノ2022」の結果や、12月15日まで投票が行われている『次にくるライトノベル大賞2021』の結果から、想像を巡らせてみるのも面白そうだ。