『かげきしょうじょ!!』星野薫のひたむきな姿勢が生んだ小さな奇跡 人間味あふれる魅力に迫る

『かげきしょうじょ!!』星野薫の人物像に迫る

『かげきしょうじょ!!』の醍醐味

番外編「男役志望・星野薫の夏休み編」が収録された『かげきしょうじょ!!(3)』

 『かげきしょうじょ!!』は薫の番外編をきっかけとして、以後スピンオフが定番化していった経緯がある。薫のエピソードは、もともと群像劇として執筆されていた『かげきしょうじょ!!』の奥行きをより一層深めた、立役者でもあるのだ。

 スピンオフは紅華歌劇音楽学校に入学する前の、高校3年生時代を描いている。紅華の受験のため、日に焼けないよう常に日傘をさし、学生らしい遊びや楽しみには目をくれずにレッスンに通う薫は、クラスメイトから変わり者と見なされていた。

 ある日薫は、バス停で辻陸斗という野球少年と出会った。陸斗の兄は人気と実力を兼ね備えたプロ野球の選手で、甲子園を目指しながらもなかなかレギュラーになれない陸斗は、兄と比べられることに重圧を感じていた。

 薫もまた、祖母や母と比べられるプレッシャーや、今年が紅華を受験できる最後の機会だという焦りや不安を抱えていた。同じような境遇にいる二人は打ち解け合い、互いに対してほのかな想いを抱いていく。

 だが二人で出かけた夏祭りの夜、才能のある兄と同じことを求められ、無理をして野球を続けてきた甲斐はあったのかと疑問を呈する陸斗に対し、薫は泣きながら感情を爆発させたのだった。

「なんでみんな…そんな事言うの 違うよ 私は違う プレッシャーに押しつぶされそうになるけど 私は自分の意志で決めたの! 無理なんて1ミリもしていない! これは私が選んだ道よ!! 私がなりたいの!! 最後までぜったいあきらめない!! あたしは何が何でも紅華に入学するの!!」

 二人の淡い恋は終わりを告げた。だが薫の言葉は陸斗を変え、やがて小さな奇跡を起こす。『かげきしょうじょ!!』らしい爽やかさと、ひと夏の恋を甘酸っぱく描いた完成度の高いエピソードは、テレビアニメでも素晴らしい演出がなされている。原作とあわせて、ぜひアニメ版も味わっていただきたい。

 今回は薫の怒っている場面ばかりを紹介してしまったが、男役らしく髪をばっさりと切り、さらさたちに褒められて照れるような、キュートなシーンも印象的だ。また『かげきしょうじょ!!』では同期生の絆も見どころとなっているが、物語が進むにつれて薫は同室の彩子とよきコンビぶりを見せていく。入学当時の薫は彩子にきつい言葉をかけていたが、そんな二人が仲良く「オルフェウスとエウリュディケ」の役作りをして、厳しいと評判の先生から演技を認められる姿を見ると、それぞれの成長を感じて胸が熱くなる。

 凛としたプロ意識をたたえながら、その背後に人間味あふれるいくつもの顔を見せる薫。そんな人物造型の奥行きもまた、『かげきしょうじょ!!』の醍醐味である。

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