冷凍室に閉じ込める? 読者の度肝を抜いた『ガラスの仮面』月影千草の特訓3選
冷凍室に閉じ込められる『ふたりの王女』アルディス(25巻)
時は経ち、マヤは度重なる困難を乗り越えて、『ふたりの王女』という演目で姫川亜弓とダブル主演をすることになった。舞台は北欧で一年の半分は冬と言われる架空の国ラストニアだ。
二人が演じる役は、ラストニア国王の父と王妃の母を持ちながら、無実の罪で母を処刑され監獄で育ったオリゲルドと、父と後妻の間に生まれ、たくさんの人から愛され幸せに育ったアルディスである。
自分たちの生い立ちや個性から、マヤがオリゲルド、亜弓がアルディスを演じることになると、本人も周囲も信じて疑わなかった。そこで口を出したのが王女たちの祖母役で久しぶりに舞台に立つ月影である。
月影は二人に不向きと思われる役を割り当てる。亜弓がオリゲルド、マヤがアルディスだ。二人の少女も困惑しながらも、互いの住む環境を入れ替えるなどして努力する。しかし月影は二人の演技には気温がないと言い、精肉工場の冷凍室に連れて行って閉じ込めた。実際にオリゲルドとアルディスが生まれ育ったラストニアの寒さがどのようなものか、体験させたのだ。
冷気が胸の中に入り手足がしびれ出す。マヤと亜弓は苦しむ。下手すれば命に関わる寒さだと思うのだが、月影はそこで亜弓にオリゲルドの台詞を言わせ、その後、冷凍室の扉を開け外に出す。暖かさを感じているマヤに、アルディスの台詞を言わせる。これを機に二人は役を自分のものにしていくのだ。
マヤの才能が花開くとき
月影はマヤに憎まれても仕方がないという覚悟があるが、マヤ、そして亜弓も、月影の特訓によって女優として大きく成長し、そのことを心から感謝している。
2012年に発売された42巻では、紅天女の試演が始まる。マヤと亜弓がそれぞれ紅天女を演じ、勝ったほうが新しい紅天女になるのだ。
マヤは月影の手を離れ、自らの力で運命を切り開いていく女優になった。月影の特訓は過酷すぎるが、根本にマヤへの期待がある。もちろんこれはフィクションであり、現実にこのような特訓が行われれば問題視されるべき部分も大きいことには留意すべきだが、いずれにしても、『ガラスの仮面』は月影とマヤによる、狂気もはらんだ師弟愛の物語として読むこともできるのだ。
■書籍情報
『ガラスの仮面(25)』
美内すずえ 著
定価:472円
出版社:白泉社