『キングダム』は史実を知らなくても面白い 未読の人に伝えたい「とりあえず5巻まで!」
しかしストーリーは、ここからが本番。秦軍の一兵卒となった信が、相次ぐ戦で死闘を繰り広げながら、飛信隊を率いるようになり、大将軍目指して出世していくのだ。しだいに集まる飛信隊の仲間たちとの絆。偉大なる先達たちの教え。同年代のライバルたちとの切磋琢磨。何巻もかけて戦の全貌を描きながら、その渦中にある個人の戦いと想いも、余すところなく活写する。いったい何度、血を滾らせればいいのかと思うほど、物語のテンションは高い。
その一方で、秦の権力闘争も、ガッチリ取り上げられている。特に、秦王の座を目指す嬴政と、一介の商人から秦の相国になった呂不韋の権力闘争は長く激しく、決着するのはなんと40巻である。必要なエピソードをじっくりと積み重ねているので、史実を知らなくてもページを捲る手が止まらなくなるのだ。
もちろん知識があったほうが、より深く作品を味わえる。戦乱の時代に人物が澎湃と現れるのは、洋の東西を問わないようだ。とにかく後から後から、魅力的な実在人物が登場する。なるほど、この人物をこう描くのかと感心したり驚いたりできるのは、知識があればこそである(個人的には、龐煖のキャラクターに仰天した)。
だから、春秋時代末期の知識がない人は、最低でも2度、『キングダム』が楽しめるのだ。一度は何も知らない、真っ新な状態でストーリーを追う。そして史実や人物に興味を覚えたなら調べ、知識を蓄えた状態で2度目のストーリーを体験できる。ここまできたら、以後も、繰り返し読む人が続出することだろう。それほどに本作は面白い。何度でも再読できる、歴史漫画の〝キングダム〟が、ここにあるのだ。