『キングダム』は史実を知らなくても面白い 未読の人に伝えたい「とりあえず5巻まで!」

『キングダム』は史実を知らなくても面白い

 山田風太郎の『甲賀忍法帖』を、せがわまさきがコミカライズした『バジリスク ~甲賀忍法帖~』がヒットしてから、横文字タイトルの歴史・時代漫画が増加した。今ではあまりにも多く、いささか食傷気味である。だが中には、内容とマッチした素晴らしいタイトルも存在する。一例を挙げれば、原泰久の『キングダム』だ。

 秦王の嬴政(後の始皇帝)の中華統一を題材としたこの物語に、キングダムほど相応しいタイトルはない。などと書くと嬴政が主人公のようだが、彼は準主役。主人公は嬴政の覇業を助けた信(後の李信)である。

 『キングダム』の人気については、あらためて述べる必要もないだろう。2006年から「週刊ヤングジャンプ」で始まった連載は、現在も継続中。既刊62巻。2019年には実写映画が公開された。また、テレビアニメもNHK総合で、第3シーズンが放送中である。こうしたメディアミックスにより、幅広い層に知られているのだ。

 しかし興味を覚えながら、なかなか作品に取りかかれない人もいるのではないか。理由はふたつ、考えられる。ひとつは巻数。すでに62巻まで行っており、これからどれほど増えていくのか分からない。ただ読むだけで、かなりの時間を費やすことになるはずだ。だが、それで躊躇してはもったいない。とりあえず5巻、5巻まで読んでほしい。ストーリーの面白さに魅了され、続く巻も読むことになるはずだ。

 さて、もうひとつの躊躇する理由が、扱っている時代である。古代中国の春秋時代末期といって、どれだけの人が知っているのか。俗に中国4000年といわれるが、日本で突出して人気があるのは「三国志」の時代。次いで「水滸伝」の時代。それ以外の時代に関しては、ガクッと興味を抱く人が減っている。始皇帝は有名人だが、注目されるのは中華統一後の事跡だ。ある程度の歴史の知識がなければ、中華統一の過程を楽しめないと思われてもおかしくない。

 でも、そういう人に訴えたいのだ。春秋時代末期の歴史など知らなくても、まったく問題ないと。異世界を舞台にしたファンタジー戦記のことを考えてみてほしい。事前に物語世界の歴史を知らないからと、読むことを躊躇することはないだろう。実在の歴史を題材とした物語も、これと同じことである。分からない史実は、とりあえず無視して、主人公の信と仲間たちの活躍や、激しい戦争描写を堪能すればいいのである。

 人物に関しても、実在か架空か、気にする必要はない。秦に協力する楊端和や、信の仲間になる羌廆は実在人物だが、経歴に不明な点が多い。作者はそれを利用して、ふたりを女性にしているのだ。しかも楊端和は山の民の王、羌廆は伝説の暗殺者の一族の出である。作者は歴史上の人物を、自由奔放に弄っているのだ。

 これは信にもいえる。彼もまた、経歴不明な点が多い。そこを逆手に取って、作者は信を奴隷同然の出自とした。共に天下の大将軍を夢見ていた親友の漂が、秦の権力闘争に巻き込まれ死亡。これが縁になり、命を狙われる嬴政と知り合い、仲間になる河了貂とも出会う。逃亡した嬴政が玉座に戻るまでの展開はアクションの連続であり、それだけで面白い漫画を読んだという満足感を覚える。



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