『鬼滅の刃』竈門炭治郎は王道の主人公ではない? 捻りを効かせたキャラクターをあらためて考察

『鬼滅の刃』あらためて竈門炭治郎の魅力を考察

※本稿には、『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)の内容について触れている箇所がございます。(筆者)

 再び祭りが始まる予感がする。なんの祭りかといえば、それはもちろん“鬼滅祭り”だ。

 本日(9月11日)から5夜にわたり、テレビアニメシリーズの第1期をまとめた「『鬼滅の刃』特別編集版」がフジテレビ系で放送され、また、日本歴代興行収入第1位(2021年現在)を記録した劇場版「無限列車編」も、9月25日に放送予定だ。そして、今秋からは待望のテレビアニメシリーズの第2期(「遊郭編」)の放送も決まっており、こうした一連の「鬼滅」関連のテレビ放送は、元々のファンの“熱”に応えるだけでなく、新たな読者や視聴者をも開拓していくことだろう。

キャラクター造型の大きな“改変”

『鬼滅の刃(1)』

 さて、本稿ではそんな『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎の魅力について、あらためて考察してみたい。

 竈門炭治郎は、鬼になった妹を救うために、鬼狩りの組織「鬼殺隊」の隊士となった少年である。物語は、この炭治郎が、「育手(そだて)」と呼ばれる師匠・鱗滝左近次のもとで剣の修行を積み、鬼狩りの実戦を通じて仲間たちとともに成長していく姿が描かれる。

 ちなみにこの炭治郎、明朗快活というか、仲間思いで優しい心を持ち、ここぞという場面では絶対に引かない強さも兼ね備えた、まさに少年漫画の王道的な主人公だが、作者の吾峠呼世晴が最初に想定していたのは、それとは正反対のタイプのキャラクターだったということが、いくつかの資料を見ればわかる。

 たとえば、『鬼滅の刃 公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』には、同作のパイロット版『鬼殺の流(きさつのながれ)』のネームが3話分収録されているのだが、そこで描かれている主人公は、どちらかといえば影のある、寡黙なタイプの剣士である。これは、吾峠の新人賞受賞作である(そして、『鬼滅の刃』と『鬼殺の流』のルーツでもある)短編「過狩り狩り」の主人公についてもいえることであり、つまり、作者が本当に描きたい主人公のタイプとは、この種のクールなキャラクター(ダークヒーロー)だということが読み取れるだろう(『鬼滅の刃』でいえば、冨岡義勇や時透無一郎、伊黒小芭内あたりがこのタイプだろうか)。

 それは、『吾峠呼世晴短編集』に収録されている、他の初期作品の主人公たちも、多かれ少なかれ同様のタイプであることからもうかがえることだが、ではなぜ、『鬼滅の刃』連載開始にあたり、主人公のキャラクター造型の大きな“改変”が行われたのか。

 その答えは、実は前述の公式ファンブック内で、初代担当編集者が明かしているのだが、要するに、連載前の企画会議で指摘された『鬼殺の流』の「落選理由」のひとつが、「主人公の寡黙さ」だったということだ(もうひとつは「世界観のシビアさ」だったとのこと)。

 そこで、編集者が作者に、主人公を明るめのキャラに変更できないかと相談したところ、(「いるにはいるんですが、面白いかわからないんです」と前置きされたうえで)「炭を売っている少年で、妹が鬼にされて、治すために鬼殺隊に入るんです」という答えが帰ってきたそうだ。いわれた編集者は、「え、何そのザ・主人公!」と驚き、結果的に、主人公はいま私たちが知っているようなキャラクター(=竈門炭治郎)に改変された。

 個人的には、吾峠呼世晴が本来描きたいであろうダークな主人公像は嫌いではないのだが、より広い層をターゲットにした場合、どういうキャラクターをセンターに置くべきかは考えるまでもないだろう(実際、炭治郎を主人公にして、同作は大ヒットした)。

 とはいうものの、原作が完結したいま、あらためて竈門炭治郎というキャラクターに注目してみれば、彼が、ただの王道タイプのヒーローというわけでもない、ということも見えてきて(つまり、作者の「ステレオタイプな主人公は描きたくない」というこだわりも見え隠れしていて)おもしろい。

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