あらゆる要素を詰め込みまくった『ゴールデンカムイ』 人の縁を紡ぎ編まれた物語を考察
数多くの登場人物の利害関係と時勢の変化が絡むことによって、物語はどんどん複雑化していく。敵だった者が味方になることも、共闘していた者が裏切ることも日常茶飯事だ。
杉元とアシㇼパにだけ感情移入して読むのなら、敵だらけということになる。けれど、読み進めていくほどに、どのキャラクターも「ただの敵」とは思えなくなってくるのではないだろうか。それは、この作品が戦い一辺倒ではなく、一人一人の人生が感じられるからだ。
どんな人間も必ず食べて眠る。ギリギリの戦いのかたわらで、杉元たちはいつか敵になるかもしれない相手と一緒に風呂に入ったり、同じ鍋を囲んで食事したりする。殺しかけたり殺されかけたりした後に冗談を言い合ったり、共闘して助け合ったりもする。そんなシーンが積み重なることで、どのキャラクターもご都合主義で主人公の前に配置された「敵」ではなく、それぞれの意思を持って行動し、その結果杉元たちとぶつかり合った一人の人間であることが感じられるのだ。
『ゴールデンカムイ』を読んでいると、物語とはつまり、人と人との出会いなのだと思わされる。誰といつ出会うかによって、人生は無数に枝分かれしていく。杉元がアシㇼパよりも鶴見中尉や土方歳三と先に出会っていれば、埋蔵金を巡る勢力図は違ったものになっていたかもしれない。脱獄王の白石がいなければ、杉元もアシㇼパもとっくに死んでいたかもしれない。そして、そのちょっとした偶然を生み出すのは、その人が生きた時代であり、生まれた場所であり、食べてきたものであり、ともに時間を過ごしてきた相手だ。一見本筋からの脱線に思えるような狩猟シーンや、ラッコ鍋のようなエピソードがあるからこそ、彼らのリアリティは増していく。そう考えるとやはり、「冒険・歴史・文化・狩猟グルメ・GAG&LOVE 和風闇鍋ウエスタン」という詰め込みまくったキャッチコピーは、この上なく的確に『ゴールデンカムイ』という作品を表現していると言える。
本編では、刺青の暗号が解読され、金塊を巡る最後の決戦の火蓋が落とされた。それぞれの野望がぶつかり合うなかで、願いを叶えるのは誰なのか。この最高級の闇鍋のクライマックスを、今こそぜひ味わってみてはいかがだろうか。