あらゆる要素を詰め込みまくった『ゴールデンカムイ』 人の縁を紡ぎ編まれた物語を考察
野田サトルによる漫画『ゴールデンカムイ』(集英社)が最終章に突入することを記念し、9月17日まで、WEBコミックサイト「となりのヤングジャンプ」と、アプリ「ヤンジャン!」にて全話無料で公開している。コミックスは26巻までの累計で1600万部を突破し、「第22回手塚治虫文化賞」マンガ大賞をはじめ、数々の賞を受賞してきた超人気作だ。まだ読んだことがない人も、途中までしか読んでいなかった人も、もう一度読み返したい人も、このチャンスに一気読みして、クライマックスを目撃する準備をしておきたい。
明治時代後期、「不死身の杉元」と呼ばれる日露戦争の英雄・杉元佐一は北海道にいた。そこで杉元は、アイヌから奪われた莫大な埋蔵金の存在と、そのありかを示した暗号の刺青を刻まれた24人の脱獄囚の存在を知る。とある事情から大金を必要としていた杉元は、アイヌの少女・アシㇼパとともに刺青人皮を集め、黄金を求める旅を始める。だが、金塊を狙うのは杉元たちだけではない。軍事政権の実現という野望を抱く鶴見中尉率いる「第七師団」。蝦夷地独立を目指す、元新選組副長・土方歳三の一派。ロシアの反体制過激派組織。そしてもちろん、正体を隠しながら暮らしている凶暴な脱獄囚たち。敵か味方か、生きるか死ぬか、息つく暇もないスピード感で展開していく冒険譚――それが『ゴールデンカムイ』の物語である。
金塊をめぐるバトルアクションが本作のベースではあるが、「冒険・歴史・文化・狩猟グルメ・GAG&LOVE 和風闇鍋ウエスタン」と公式が評している通り、あらゆる要素を内包した作品でもある。
例えば、すでに幾度となく言及されているように、アイヌ文化の精密な描写が『ゴールデンカムイ』の大きな特徴だ。「チタタプ(我々が刻むもの/たたきのこと)」や「ヒンナ(おいしい)」などの言葉をこの作品で知った人は少なくないはず。
また、アイヌだけでなく、明治後期の日本や北海道文化も細かく描写されており、歴史的背景を感じることもできる。世界観は壮大で重厚でありながら、決してシリアス一辺倒ではない。杉元たちがアシㇼパに教わりながら狩猟・調理をし、「ヒンナ」と言いながら食事をするシーンには生活感漂う癒しがあるし、ムチムチの男たちが閉ざされた部屋でラッコ鍋を食べ、だんだんおかしな雰囲気になっていく「ラッコ鍋回」(115話)は、『ゴールデンカムイ』屈指のユーモア回だ。
何気ない日常シーンのゆるさと、命を懸けたバトルシーンの緊張感。この緩急こそ、多くの読者をこの作品にのめり込ませる中毒性の一つだろう。