筒井康隆『残像に口紅を』30年越しのヒットに見るTikTokの可能性 若年層へのアプローチに出版社が熱視線

「たとえばライト文芸は、アニメや漫画が好きな方にとっても親しみやすい綺麗なイラストが表紙になっていますし、テーマも恋愛などが中心で、中高生が興味を持ちやすいです。実際に読んでみると、面白い作品がたくさんあり、読書の楽しさに目覚めるのにはうってつけだと思いました。そうした読みやすい作品に織り交ぜて、もともと好きなミステリーなどをキャッチーに紹介するように心がけています。筒井康隆さんの『残像に口紅を』は、たまたま自分の本棚の奥にあったのですが、いわゆる特殊設定ミステリーで斬新な作品なので、インパクトのある動画になると思って選書しました。僕の動画をきっかけに、読書好きが増えていったら嬉しいです」(けんご氏)

 発売から30年以上が経った書籍を、流行の特殊設定ミステリーとして捉え直したけんご氏。フレッシュな感性も、出版社にとっては新たな発見だ。

「『残像に口紅を』は当時から画期的な実験小説として評価され、30年以上愛され読み継がれてきたロングセラーです。今回、TikTokでけんごさんにご紹介いただいたことで、『残像に口紅を』を知らなかった若い世代にも、この作品の魅力や面白さが評価されたのは、出版社としても嬉しく思っています。今後もTikTokをきっかけに、若い方が新刊だけでなく、なじみのなかった往年の名作やロングセラーに触れたり、同じように新しい書き手や知られざる作品が世に広まることが増えればと願っています」(小西氏)

 「朝の読書運動」などによって、若年層の読書率は上がりつつあると言われる昨今。けんご氏のような新しいスタイルの選書家が現れたことは、出版界にとって追い風となりそうだ。

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