『異世界居酒屋「のぶ」』がアニメ化と実写化をともに果たしたワケ 独自の立ち位置を考察
蝉川夏哉『異世界居酒屋「のぶ」』は2012年10月から小説家になろうにて連載が始まり、2014年9月から宝島社の単行本で刊行(16年から宝島社文庫に文庫落ち)、15年から始まったコミカライズも大人気の作品となっている。
この作品は「なろう系なのにライト文芸でもある」という不思議な立ち位置の作風が特徴的だ。どういうことか?
アニメ化も、実写ドラマ化もされた珍しい作品
本作は「トリアエズナマ」が来店客の合い言葉のようになっていることからわかるように、酒をたしなめる年齢向けの作品である。
寂れた商店街にある居酒屋のぶは異世界と通じており、客として異世界人が訪れる。
異世界ものだが「居酒屋」だけあっておでんのような和食も頻繁に登場。生魚を食べると危険だと思われている異世界で、刺身を食べるか食べないかで呻吟したあげく一口食べたら箸も日本酒も止まらなくなる、といった日本食と異文化との出会いをおもしろおかしく描くエピソードや、客にふさわしい料理を提供すると本人が悩みや過去を回想し、食を味わうことによってその問題が解消または緩和されて満足して帰ってもらうという流れがパターンになっている短編集だ。
2018年にはアニメ化され、2020年にはWOWOWプライムで品川ヒロシ監督によってドラマ化されている。
なろう系では珍しい、というかライトノベルやライト文芸を見渡してもかなり稀有な、アニメ化と実写化をともに果たした作品である。(ちなみにアニメは、本編放送後に作中に登場した料理を再現・アレンジしたり、フォークシンガー/タレントのなぎら健壱が実在の店を食べ歩いたりする実写バラエティ番組とセットになっていた)
一般的に、二次元色の強いラノベ作品と実写とは相性があまりよろしくなく、たいていの場合は残念ながら評判が悪いことが多い。しかし、本作のドラマ版に関しては、評判はそこまで悪くない。なぜだろうか。
WOWOWでドラマ化されたなろう発のグルメものといえば、一般文芸として老若男女に支持された秋川滝美『居酒屋ぼったくり』がある。
本作の本質も、なろう系でありながらラノベというより一般文芸寄りの、まさに中間的な「ライト文芸」であり、ゆえに実写化が(いかにも吉本興行的な悪ノリを除けば)それなりに成功したのではないか。
本作は宝島社からといっても、ラノベレーベルである「このライトノベルがすごい!文庫」ではなく、一般文芸やライト文芸を刊行する「宝島社文庫」から刊行されている点も、この仮説を補強する。