サリー久保田の『我が愛しの歌謡曲』レビュー 純粋に歌謡曲を楽しむための重要な指南書

サリー久保田の『我が愛しの歌謡曲』レビュー

 近年、若い世代での昭和歌謡ブームが続いています。リアルタイムの経験がなくても、“昭和歌謡”という新しいジャンルとしてみんな反応していて、昨年、大作曲家・筒美京平さんの逝去で多数の特番が放送になったで、そのブームさらに様々な層に広まった感があります。

 ’80年代アイドル歌謡好き欅坂46の小池美波や元さくら学院の武藤彩未、ミュージシャンでタレントの半田健人や町あかり、星屑スキャット(ミッツ・マングローブ、ギャランティーク和恵、メイリー・ムーによる音楽ユニット)などなど、みんな自分なりの解釈で“昭和歌謡”を楽しみ、さらに阿久悠や松本隆、前述の筒美京平といった作家別の研究もしているようです。

 それは若い和モノDJたちも同じで、それぞれに共通しているのは時系列に関係なく、同じビートやグルーヴのある曲、アレンジの洋楽性などを研究しているという。さらに昨今は、そこにシティポップ・ブームまで加わり、海外でも’80年代の竹内まりやや山下達郎などを中心とした日本の歌謡曲・ポップス好きがが増殖中です。

吉川潮の原体験

 この『我が愛しの歌謡曲―昭和・平成・令和のヒット・パレード―』(ワニ・プラス)ではそんな背景とは関係なく、著者である吉川潮さんの歌謡曲に関する楽しい思い出、切ない思い出などがリリカルに語られています。例えばグループサウンズ全盛の’60年代、著者はアイビーカットの立教の大学生。1年先輩にザ・ワイルドワンズの鳥塚しげきがいたせいもあって、ワンズのファンになります。今でも「思い出の渚」を聴くたびに大学時代の思い出が蘇るそうです。誰にでもありますよね、ワンフレーズ聴いただけで当時の情景が鮮やかに蘇る曲。

  GS全盛の頃、僕はまだ小学生でしたが、同級生とザ・スパイダースの「バン・バン・バン」(1967年)の替え歌を作ったり、女の子の前でザ・タイガースの大ヒット曲「君だけに愛を」(1968年)の歌真似なんかしていましたっけ(笑)。

 そして著者はこの本で、高校3年の時に、大ファンだったいしだあゆみとデートしたことも語っています。某芸能雑誌の企画で、もちろんスタッフが一緒でしたが。なんとも羨ましい限りですが、その2年後に「ブルー・ライト・ヨコハマ」(1968年)が大ヒットし、高嶺の花感が増したのだとか。青春の思い出ですね。

 時代は違いますが、僕も中学3年の時に家の前のスーパーマーケットに「ひとりごと」(1975年)でデビューしたばっかりの岡田奈々がキャンペーンにきて一目惚れしました(笑)。想いは持ち続けるもので、それから44年後の2019年にご本人とお仕事でご一緒させていただきました。感激でした。著者も機会があれば、ぜひ今のいしだあゆみさんに会って、当時のデートの思い出話をしてもらいたいです。

 著者は団塊の世代ですが長髪が嫌いだったようで、ロックンロールとも縁がなさそうに見えます。ですが矢沢永吉の項で「バラードだけ歌うライブがあれば行きたい」と。それは僕も同感です。1999年、矢沢永吉50歳バースデーコンサートでデビュー曲のバラード「アイ・ラヴ・ユー、OK」(1975年)を熱唱中に声を詰まらせ、初めて見せた涙は感動的でした。また相沢行夫の歌詞も素敵なんですよね。“振り返れば長く辛い道も〜”ときますからね……。やばい、僕もキャロルに憧れた10代の頃を思い出します。

 また、僕も著者と同じく竹内まりやの作詞・作曲の「駅」は大好きな曲です。1986年に中森明菜に提供したこの曲は’60年代のフランス映画のようでもあり、歌い出しには日本でも人気があったダニエル・ビダルの曲へのオマージュも感じますが、圧巻は歌詞世界なんです。著者が言うとおりの劇場型で、昔の恋人を見かけるシーンはなんとも切なく、男の僕でも胸に突き刺さります。中森明菜バージョンもいいのですが、翌年の竹内まりやのセルフカバーも素敵です。著者おすすめの若手歌手、林部智史の「駅」も聴いてみましたが、柔らかい声質がより映画っぽく、個人的には『パリのめぐり逢い』なんかをイメージしてしまいました。

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