ハリウッドきっての“よく死ぬ役者”は料理の達人? ダニー・トレホ直伝のタコスを作ってみた

ダニー・トレホの激ウマ・タコスを作ってみた

 “よく死ぬ役者”ランキングの常連ダニー・トレホは、今やハリウッドの最凶で最高なヒーローだ。主演映画『マチェーテ』で大ナタを手に暴れまくったコワモテ俳優が、たまたま出くわした交通事故で横転した車から赤ちゃんを救出し、果断を讃えられたニュースは皆さんの記憶にも新しいだろう。

 彼はまた、地元ロサンゼルスで「Trejo’s Tacos」などのレストランチェーンを持つ飲食店経営者の顔も持つ。今回出版された『TREJO’S TACOS:Recipes and Stories from L.A.:A Cookbook/Danny Trejo(Clarkson Potter)』では、自身の店のタコスやドーナツなど75に及ぶレシピをフルカラーで紹介する。

 鮮やかなピンクの表紙には、ニカッと笑うトレホ。手に取ると図鑑のようにズシリと重いハードカバーだ。開いてみると、肉料理などのガッツリ系からヘルシーな野菜料理までがカラフルで力強く並び、食欲をそそってくる。

『TREJO’S TACOS』はダニー・トレホから、母へのラブレター

 そもそも、彼はなぜ、レストランを出したのだろう?

 その謎は、トレホが半生を振り返る序章「ONCE UPON A TIME in LOS ANGELES」で紐解ける。

 1950年代。ロサンゼルスのエコパーク(Echo Park)エリアで育ったダニー少年には、料理上手な母親がいた。

 月の初めにはエンチラーダやカルネ・アサダ、チキン・モレなど手の込んだメキシコ料理を振舞い、月末の家賃払いでお金が尽きてくると、ありあわせで名も無き料理を作る。年頃になったトレホがいざこざを起こし始めても温かく迎え入れてくれ、いつも最高の料理を作り続けてくれた。

 トレホは「母は一日中キッチンに立っていた。」と回想する。食卓を通して母親の愛情を目一杯受け止めた少年は「ママ、俺たちのレストランをやろうよ!」と、母と夢を語り合っては、食への情熱を高めていった。

 ゆえに、献辞にしたためられた「この本を俺の家族に捧ぐ。何よりもまず、母の思い出にだ。ママ、ついに俺たちのレストランができたよ。」が胸に刺さる。レストラン経営は、ダニー・トレホの夢だったのだ。

 本書は、母との夢を叶えた息子からのラブレターのようにも思える。

ダニー・トレホのメキシコ料理を作ってみた

 さっそく、マチェーテ(鉈)の代わりに包丁をふるうトレホのレシピに倣って、メキシコ料理を作ってみた。いずれも家庭料理の延長線上にあり、材料も入手しやすいものばかりだ。完成写真と共に、3品紹介しよう。

CARNITAS/PICKELED RED ONIONS/GRILLED PINEAPPLE

 メキシコで大人気の肉料理、カルニータス。本来は大量の脂(ラード)で豚肉を揚げ焼きしてほぐす、メキシコ版プルドポークのような料理だが、ダニー流は鍋をオーブンに入れ、2時間じっくり煮込んでほぐした後、フライパンでこんがり焼き付けて仕上げる。スパイスと時間さえあれば、一般家庭でも作れるレシピだ。

 舌先で崩れるほどホロホロに煮え上がったカルニータスは絶品。Netflixのドキュメンタリー『タコスのすべて』で観て憧れた、あのカルニータスが食卓に上ったことにも大興奮。

 本書のレシピで作った赤タマネギのピクルスと、とろける甘さの焼きパイナップルも、自分では思いつかない素晴らしい相性だ。

GRINGO TACOS

 日本でもおなじみのルックスのタコス。ご存知の方も多いと思うが、実はこのトルティーヤをU字型に折り曲げて揚げたハードシェルに牛ひき肉やレタスを挟むスタイルは、スペイン語で「よそ者」を意味するスラング「GRINGO」が表すように、アメリカ生まれのもの。起源には諸説あるが、ダニーが推測するには、養牛が盛んなテキサスでメキシコ系移民が手近な食材を用いて編み出したのだろう、とのこと。

 バリッとかじると、じっくり炒めた玉ねぎとひき肉から、クミンやオレガノが香ってスパイシー。汁気の少ないタコミートに仕上がるダニーレシピは、ワルのイメージとは裏腹に、なかなか行儀よく食べられるのもポイントだ。

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