漫画「映画大好きポンポさん」シリーズが訴える、映画への畏怖と創作の喜び

「ポンポさん」シリーズが訴える、映画への畏怖と創作の喜び

 スピンオフ作品のうち、ダイナーで働きながら女優を目指すフランを主役にした『映画大好きフランちゃん』では、『映画大好きポンポさん2』でジーンが新作映画に取り組む裏側で、ポンポさんのチームに起こっていた事態が描かれる。女優を目指してオーディションに臨んでは連敗続きのフランに対して、ポンポさんは「オーディションに行ったら、台本なんか読んでないで他の人の演技を見ろ」という趣旨の言葉を投げかけ、自分がどれだけヘマをしてきたかを分からせる。

 そうして演技の質を上げたフランが主演した映画が、ジーンの映画と並んで評判になった後、フランには出演のオファーが舞い込むが、そこでフランがとった行動がまたジーン譲り、あるいはポンポさん譲りの豪快なもの。ジーンやポンポさんに刺激された映画バカがひとり誕生した。

 また、フランの後輩にあたるカーナが主役の『映画大好きカーナちゃん』では、人気俳優の相手役として銀幕デビューが叶いそうなカーナが、ぶつかった演技の壁を乗り越えようとして取り入れた演技法が凄まじい。SF映画が大好きな脚本家も登場するが、思い込みに走らず、観客のために分かりやすさを心がけた脚本を書く大切さが描かれる。ジーンも自分に妥協はしない。それは作った映画を観てほしい人の理想に近づけるためだ。クリエイターたちの情熱が向かうべき道が、いくつも示された漫画だった。

 『映画大好きポンポさん3』はジーンの監督業にかけるとてつもない熱量を、倍増しで浴びせられるストーリーだ。ジーンやポンポさんたちの活躍に刺激されたか、ポンポさんの祖父で名プロデューサーとして知られたペーターゼンが現場に復帰し、ジーン監督で1本映画を撮り始める。その一方で、ポンポが通う学校(学生だったのだ!)の同級生にカメラマンの才能を持った少女がいて、ポンポは彼女のために1本映画を撮ろうとする。そこで起こったのは、かつてのジーンとの映画対決よりも凄いこと。唖然とさせられること請け合いだ。 結果、ひとりの才能に溢れたカメラマンが誕生し、ポンポさんの近くで燻っていた俳優が日の目を浴び、大舞台へと駆け上がっていく。

 映画は本当に良いものだ。そしてとてつもなく怖いものだ。そんな思いにさせてくれる原作が、「映画大好きポンポさん」シリーズにはこんなにある。アニメ映画が大好評の平尾監督だが、自ら描いたジーンの熱量に刺激され、次また次とアニメ化に挑んでくれないか。そんな思いが今、激しく募っている。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書誌情報
『映画大好きポンポさん』(ジーンピクシブシリーズ)
著者:杉谷庄吾【人間プラモ】
出版社:KADOKAWA

■公開情報
『映画大好きポンポさん』
全国公開中
声の出演:清水尋也、小原好美、大谷凜香、加隈亜衣、大塚明夫、木島隆一
原作:杉谷庄吾【人間プラモ】(プロダクション・グッドブック)『映画大好きポンポさん』(MFC ジーンピクシブシリーズ/KADOKAWA刊)
監督・脚本:平尾隆之
キャラクターデザイン:足立慎吾
制作:CLAP
主題歌:「窓を開けて」CIEL(KAMITSUBAKI RECORD)
挿入歌:「例えば」花譜(KAMITSUBAKI RECORD)/「反逆者の僕ら」EMA(KAMITSUBAKI RECORD)
配給:角川ANIMATION
(c)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会
公式サイト:https://pompo-the-cinephile.com/

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