『ギャングキング』柳内大樹が語る、連載17年の気付き 「売れてる人はみんな優しい」
発行部数は1200万部で、連載期間は17年。2003年に『ヤングキング』で発表され、『マガジンSPECIAL』『別冊少年マガジン』、そして『イブニング』と掲載誌を変えながら続いてきた人気コミック『ギャングキング』。4月27日発売の『イブニング』10号で最終回を迎え、5月21日に最終巻となる単行本37巻が発売された。
幼い頃、自分を助けてくれた凄腕の彫り師・勝針の背中の不動明王の彫り物を“ヒーローの証”として、世界一の彫り師”を目指す薔薇十字学園高校・工業科のジミーこと大西勝也。自らの手で自分の身体に和彫りを入れているジミーと仲間たちの物語は、世代を越えて読者の心をつかんでいる。果たしてその生みの親で、『セブン☆スターJT』や『ガキ☆ロック』などでも知られるヤンキー漫画の雄・柳内大樹とはどんな人物なのか?
完結を記念して、『ヤンマガweb』との合同企画で柳内大樹にインタビュー(『ヤンマガweb』インタビューは記事最終ページのリンクを参照)。ご本人も作品の登場人物さながらのコワモテなのか? そしてやはり体には入れ墨が? しかし目の前に現れた柳内大樹の第一声は「連載を終えてホッとして、おじいちゃんのような気分です」……おじいちゃん? 漫画家としての素顔、そして人柄に通じる作品の魅力まで話を聞いた。(渡辺水央)
入れたのは入れ墨ではなく剃り
――『ギャングキング』がついに完結を迎えましたが、最終回を描き終えての心境はいかがですか?
柳内:まだ、あまり実感が湧いてないですね。もうひとつ『セブン☆スターJT』という作品をやっていて、そちらの作業にすぐ入ってしまったので余韻に浸れなくて。ただ、やっぱりどこか寂しさはあります。当初は10数巻で終わらせるつもりでいて、主人公のジミーと同じ年(17歳=17年)まで続くとは思っていなかったんですよ。多分、キャラを出しすぎたんですよね。「困ったら新しいキャラを出せばいいじゃないか」みたいなことをやり続けていたら、どんどん延びていってしまいました(笑)。もう45歳なので、17歳の気持ちは分からないなぁと思いながら、昔を思い出して熱い気持ちで描いていました。
――主人公で彫り師を目指すジミーは、自らの手で身体に和彫りを入れているというキャラクターでしたが、入れ墨にはもともとご興味があったんですか?
柳内:周りにも入れ墨を入れているヤツがいっぱいいて、絵柄としても面白いので描いてみたいというのはありましたね。実際描いていて大変でしたけど、楽しかったです。僕自身も入れ墨を入れているのかとよく聞かれるんですが、そこは皆さんのご想像にお任せしますということで(笑)。
――そこも含めてぜひ伺いたかったんですが、ズバリ、先生も昔はかなりワルだったんでしょうか?
柳内:いや、格好だけです(笑)。周りが悪くて、中学のときはケンカなんかもありましたけど、高校生になったら全然でした。でも人と違うことをしたいというのがあって、みんなが短ランを着ていたら長ランを着てみたり。あと僕、昔に剃り込みを入れてたんですよ。
――入れてたのは墨ではなく、剃りなんですね(笑)。
柳内:今、くーちゃん(野性爆弾・くっきー!)がやってるような鬼剃りってヤツです!当時でもすでに剃り込みはダサイってなってたんですけど、あえて変わったことをやりたくて。剃り込みが入ってる『ルパン三世』って面白いかなと思って、あの髪形にして生え際をV字に抜いてました(笑)。僕の周りは、不良でも真面目なヤツが多かったんです。『BE-BOP-HIGHSCHOOL』派か『湘南爆走族』派で言ったら、『湘爆』派。『湘爆』はタバコも吸わなくて、純情でロマンティックなんですよね。うちの前にゾク車が停まるのがイヤだなと思ったら、ちゃんとエンジンを切って引いてきてくれたりして(笑)。
――そんな中で漫画家を目指されたきっかけは?
柳内:うちは兄貴が何でもできる人だったんですけど、唯一僕のほうが勝っていたのが絵でした。それが嬉しくて小さい頃からずっと描いていたんです。あと僕、先天的にちょっと耳が悪いんですよ。それもあって、会社勤めじゃない仕事をと考えた上で、漫画家になろうと必死でした。
そして18歳で上京してからは上京デビューじゃないですけど、社交性も封印していました。クリスマスも正月も関係なしという感じで。実は結構社交的でしゃべるほうなんですけど、ヤサグレたふりしたりして。そんな面倒くさそうなヤツ、誰もついてきてくれないですよ! しかもしょせん嘘ですからね。それをやめてから友達ができました。
――漫画はどんなものを読まれていたんですか?
柳内:雑誌で言うと『ヤングマガジン』が好きで、『ヤンマガ』信者でしたね。『パッパカパー』とか『右向け左!』とか、本当に面白くて。特に大好きだったのが、ハロルド作石先生の『ゴリラーマン』。『ゴリラーマン』と、あとさっきも話に出た『湘爆』はもう何回も読み返して模写してました。そうしたら持ち込みのときに「作石先生と絵が似すぎてる」って言われて、“カッコ悪! バレてる!!”って(笑)。
でも正直に言うと、未だに自分の絵はなくて、これまで見てきたいろんな先生たちの真似にすぎないのかもしれないですね。これは自分のオリジナルだろうと言えるのは、耳だけ。耳の形っていうのは自分で考えました。
――ちなみに作石先生と対面はされたんですか!?
柳内:何回かお会いさせていただいています。僕、緊張することってほとんどないんですけど、初めてお会いしたときは緊張しましたね。ストレートにファンですって伝えたんですけど、あんまり面白いことは言えなくて(笑)。ずっと尊敬する先生です。
――デビュー前はどんな作品を掛かれていたんですか?
柳内:正直、ヤンキー漫画が好きっていうわけではなくて、描いたこともなかったんですよ。『ゴリラーマン』も『湘爆』も実はヤンキー漫画っぽくなくて、僕が特に好きなのは心の中のドラマなんですよ。
持ち込みで描いていたのも、ブルース・リーの黄色いつなぎを着て、学ランをマントのように羽織っているおかしなヤツが主人公の漫画で(笑)。それが面白いってなって、デビューの話をもらったときに「暴走族ものを描いて欲しい」って言われて。絵的にヤンキー漫画が合っていると思われたんでしょうね。実際、自分でも合ってると思うんですけど、そこからヤンキー漫画のイメージが大きくなっていって。本当は他の漫画もぜひ読んで欲しいんですけどね(笑)。
――ヤンキー漫画を目指されていたわけではなかった! でも確かに、『ギャングキング』にしても、いわゆるヤンキー漫画とひと口にくくれないところはありますね。
柳内:そうなんですよね。電子コミックのジャンル分けでは、〈ヒューマン〉だったりするんですよ! 嬉しいんですけどね。『セブン☆スター』は〈バトル〉に入っていて、シリーズの『セブン☆スターJT』はなぜか〈裏社会・アングラ〉みたいなところで、どういうカテゴリーなんですかね!? 自分でも分からなくて(笑)。
――そういう意味では、『ギャングキング』をはじめとした作品のキャラクターにしても、別段、ヤンキーを描こうと思って描いているわけではないというか。
柳内:ギャップの面白さみたいなところで、実は真面目なヤツを描きたいんですよね。アホなんだけれど根っこは真面目で、真面目だからこそすごいことをやったりして。特に『ギャングキング』に関しては、そういう漫画にしたいと思ってやってました。だから(ジミーの仲間・ゾンビの)武器もバイブだったり(笑)。
――キャラクターみんなそれぞれ芯は通っていて、自分の筋も通しているのが作品の魅力でもありますよね。
柳内:『ギャングキング』でマッスルというキャラに言わせているんですが、人の心なんて死ぬまで分からないって思ったときがあったんですよ。唯一分かるとしたら、自分の心の中だけ。それに気づいて、自分の心にさえ嘘をついてなければ、誤解されようが何しようが平気だって思えるようになって。僕自身それまでなかなか売れなくて、自分のプライドを守るために「時代のせいだ」、ひいては「読者のせいだ」って嘘をついていたところがあるんですよ。それを全部自分のせいだって受け止めるようにして嘘をつかなくなったのと、『ギャングキング』が始まったのがまさに同じ時期だったんです。
以前は漫画でも自分以上のことを描いていたと思うんですけど、漫画でも嘘をつかなくなった。そんなところでも芯を通せて、多くの方に読んでいただけたのかなと思います。