町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』が描く日本社会 求められる「第6の絆」とは?

『52ヘルツのクジラたち』が描く日本社会

 アメリカや東南アジアなどでは地域コミュニティの希薄化、関係の流動性の増大、家族関係の困難に対して、キリスト教やイスラーム、仏教など宗教が人々が互いを支え合うベースとなるコミュニティ機能や生きる意味づけを提供しているが、日本ではまだそうした現象は広範には顕在化していない。

 つまり、このところ描かれ、話題作の多い――たとえば2021年4月期にTVアニメが放映されている、しめさば『ひげを剃る。そして女子高生を拾う』もそうだ――、恋人でも親友でも家族でもないが特別な信頼関係を築く様子を描いた作品の背景には、恋愛も友情も家族の絆も勤め先も自分を救ってくれるものとは容易に信じられなくなり、それらに頼れない場合にはどうにもならない日本社会の現在の姿がある。

 どうにもならなくなった場合に、あってほしいと願うような関係性が、『52ヘルツのクジラたち』をはじめとする諸作には描かれている。「恋愛」「友情」「家族」「地域」「仕事」のいずれにも属さない「第6の絆」が、いま求められている。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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