声優・井上和彦が振り返る、人との出会いに満ちたキャリア50年「僕はアドバイスで出来ている」

声優・井上和彦がキャリア50年を振り返る

 『サイボーグ009』の島村ジョーや『美味しんぼ』の山岡士郎を筆頭に、日本のアニメーション史に残る数々の人気キャラクターを演じてきた声優界の重鎮、井上和彦。若い世代からは『NARUTO』のカカシ先生や、『夏目友人帳』のニャンコ先生/斑役としても知名度が高く、幅広い層から支持を獲得している。

 そんな井上がこの度、『風まかせ 声優・井上和彦の仕事と生き方』(宝島社)を出版した。本書を手に取ってみると、その声優人生が数々の出会いによって紡がれてきたことがよくわかる。今回、リアルサウンドブックではインタビューを敢行。仕事に対する意気込みや、昨今の声優ブームについてなども伺った。(山内貴範)

声優人生50年、印象深いキャラクターは?

『風まかせ 声優・井上和彦の仕事と生き方』(宝島社)

――井上さんはこれまで膨大な数のキャラクターを演じてきました。特に印象深いキャラは誰でしょうか?

井上:やはり1979年の『サイボーグ009』の島村ジョーが、僕の代名詞といえる役ではないでしょうか。それまでにも『超合体魔術ロボ ギンガイザー』の白銀ゴローなどの主役は演じていますが、井上和彦のいわゆる二枚目路線が出来上がった役は島村ジョーですね(笑)。ちゃんとお芝居ができたのかはひとまず脇に置くことにしますが、自分にとって大事な役であることは間違いありません。

――009を機に、主人公級の役がどんどん増えていきますね。

井上:そうですね。ありがたいことに、主役をたくさんいただけるようになりました。『機動戦士Ζガンダム』のジェリド・メサもインパクトがある役でしたが、次なる転機になったのは、1988年に『美味しんぼ』の山岡士郎を演じたことですね。

――それまでの役はヒーローが多かった中で、かなり意外な役ですよね。

井上:そうそう。年代的にも10~20代前半のキャラが多かったからね。山岡は年齢的には27歳の大人だけれど、普段は本当にだらしなくて、けれども食べ物の味に関してはうるさいというこだわりを持った男。今までのお芝居にはないものを要求されました。例えば、マイクの前で二日酔いの声を出すなんて、どう演じればいいのか……悩みましたよ(笑)。

自分のやりたいことは自分で掴んでいく

人と会うのが苦手な時期があったと話す井上氏。

――井上さんは声優になる前は、ボウリング場に勤務し、テレビ局の大道具係なども経験されていたそうですね。

井上:ボウリング場で人と向き合うのが苦手になった時期があって、あまり人と会わなくても済む大道具に逃げたんですよ。でも、その大道具の仕事は、華やかな芸能界を後ろから支える仕事で、こういう凄い世界があるんだなと憧れるようになったんです。そのためにも、人と接するのが苦手な性格を直したいと思い始めました。

――そこから、声優を目指すことになると。

井上:ちょうど、声優になりたいという友達がいたんですよ。一緒にスタジオを見に行ったら、これは面白そうだし、対面が苦手な性格も克服できそうだと思ったんです。何より、その場で永井一郎さんにお会いできたのは、奇跡的な出会いでしたね。

――それは凄いですね。

井上:声優の学校に通いながらアフレコの現場を見学させてもらっていたら、富田耕生さんに「一言演じなよ」と言われて、その場でキャスティングされてしまったのが、『マジンガーZ』の兵士の役です。その頃、声優界では若い人を育てようという機運がありました。東映のスタジオには1週間に1回くらい見学に行っていたので、『魔女っ子メグちゃん』のボスの子分とか、チョイ役で出させてもらった役が多いですね。

――見学をしながら現場でキャラクターを演じることで、技術面がかなり鍛えられたんじゃないでしょうか。

井上:見学に行って先輩たちの背中を見させてもらったのは、大きかったですね。ビーサンを履いて行ったら、「神聖なスタジオに何事だ!」と怒られたことはありましたけれど(笑)。

――服装はさておき、井上さんは自ら進んでチャンスを掴みにいっているのが素晴らしいですね。

井上:声優になりたくても、何をどうすればいいのかわからなかったので、見学に行っていただけですよ。でも、僕は子どもの頃から、自分のやりたいことは自分で掴んでいくものだと思っていました。中学の時、近所のおじいさんが弓道をやっているのを、かっこいいなと見学していたら、誘われて、その流れで高校まで弓道に取り組みました。その結果、県大会で優勝したこともあるんですよ。

――やりたいことがあったら、自発的に取り組むのは自然なことだと。

井上:そもそも、声優になりたいからと言って学校に通っただけでは、学べることってそんなに多くないんですよ。どんな仕事でも、学んだこと以上のことをたくさん得なければ、プロに近づいていくのは難しいと思いますからね。

学んだこと以上のことをたくさん得なければ、プロに近づいていくのは難しい。

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