加藤シゲアキ『オルタネート』売り上げ好調続く 現代的な「成熟」描く青春小説の魅力

加藤シゲアキ『オルタネート』売上好調続く

 『オルタネート』が賞を獲ろうと獲るまいと、おそらく作家の(あるいはこの作品の読者の)内面のドラマはまた別のところにある。ただし、外側から押しつけられるフレームや演出を完全に拒絶するわけでもない。半面では受け入れながらも、もう半面では自分の世界を生きている。そのあわいが『オルタネート』が示す生き方だ。

 個人的にはもうちょっと突っ込んだ展開がほしいと初読時には感じたが、この抑制された行儀のよさこそが、今っぽい「成熟」のありようなのだと思う。青春というものが大人の作ったしくみや規範から自律的に行動することで生み出される風景なのだとしたら、これはまぎれもなく青春小説である。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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