加藤シゲアキ『オルタネート』売り上げ好調続く 現代的な「成熟」描く青春小説の魅力

加藤シゲアキ『オルタネート』売上好調続く

参考:トーハン調べ 2021年3月期 月間ベストセラー<総合>

 2020年12月に発売されたジャニーズ事務所のアイドルグループNEWSに所属する加藤シゲアキの小説『オルタネート』が2021年に入っても売れ続けている。

 第164回直木賞候補になり、第42回吉川英治文学新人賞候補になり、4月14日に発表される2021年本屋大賞ノミネート作品になっている。直木賞は「アイドル初の受賞なるか」と注目を集めたが、残念ながら受賞には至らず、吉川英治文学新人賞は見事受賞となった。すわ本屋大賞は? と思うところだが、この作品にはそういうマスコミ的な、外側から設定されたアングルと当事者の気持ちにはズレがある、ということが描かれている。

外から「作られた」見方と、内側の動機にはズレがある

 この作品に登場する容(いるる)は、高校生同士が対決する料理番組に出場するが、対戦相手候補となる別の高校の三浦との交際について、本人は望んでいないのに制作サイドの「演出」(都合)によって番組中に触れられ、調子を崩してしまう。番組側が持って行きたい方向性と、容本人の動機や本心は一致しない。

 あるいは、ダイキは付き合った相手とカップル動画をたくさんアップしていたが、まるで動画をあげるために付き合っているような、レンズ越しに会っているような感覚に陥り、恋人と別れて悲しいということよりもそれでまわりがどう反応するかが気になっている自分に気づく。周囲があてはめてくるフレーム、SNSの評価システムに振り回される自分がいる一方、それに違和感を抱いて抜け出そうとする自分もいる。

 『オルタネート』は高校生たちが、大人やシステムが用意した「しかけ」から「はみ出る」ことを選ぶ物語だ。ただ、あくまで「はみ出る」のであって、しがらみや仕様から完全に自由になれるわけではないし、なんでもうまくいくわけでもない。しかし、それでも気持ちの面で自発的になり、「選ぶ」ことはできる。

外側の演出や評価よりも、自分がどう思うか、どう決めるか

 しかけやしがらみを完全に振り切って完全に自由になったという感覚を描く物語のほうが爽快感はあっただろうが、加藤シゲアキはそうしなかった。そうではなく、大人が用意した演出やテクノロジーが用意した評価システムと自分たちの本心とのあいだに「折り合いを付ける」という成熟の物語になっている。それを使う/使わない、乗る/乗らないを自分で決めるという内発性、自発性が重視されている。

 高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」のある現代を舞台にした作品だが、この設定を使って派手で華やかな世界を描こうと思えば描けただろうが、そうはしなかった。そうではなくむしろマイクロスコピック(微視的)に現代の生を見つめ、「ああ、そういうことってあるよな」という日常生活で感じる機微をすくうことに力点がある。

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