アニメ化で注目『スーパーカブ』の魅力とは? 少女×バイクの地道な成長物語に共感

『スーパーカブ』読者を熱くする理由

 以後、作者は登場人物を増やしながら、小熊のさらなる成長を描いている。大学進学に関する悩み、新たな人々との出会い、交通事故による入院……。本人にとっては重大な問題や事件を乗り越え、小熊は進む。第4巻あたりから、やや性格が変わったように見えるが、それも成長の明かしなのだろう。最新刊となる第7巻では東京の大学に入学。新たなステージに突入したシリーズが楽しみでならない。

 そうそう、せっかくなので他のバイク小説も取り上げよう。

新美健『カブ探』(徳間文庫)
新美健『カブ探』(徳間文庫)

 新美健の『カブ探』の主人公は、地方都市で私立探偵をしている南原圭吾。妻とは離婚しており、大学生の娘・梨奈とふたり暮らし。ホンダ・スーパーカブを愛好し、日常的に乗り回している。作者はスーパーカブの愛好家であり、そちら関係の描写や蘊蓄が充実している。また、ストーリーも愉快痛快。幼馴染のヤクザと共にバイク窃盗団に殴り込みをかけた一件から、スーパーカブを主とした民間レースの参加中に命を狙われるまで、中年私立探偵の愛すべき活躍が堪能できるのだ。昔の探偵ドラマを好きな人にもお薦めの一冊である。

 スーパーカブではないが、バイク乗りの高校生を主役にした青春物語が、菅沼拓三の『俺はバイクと放課後に』三部作だ。

菅沼拓三『俺はバイクと放課後に』(徳間文庫)
菅沼拓三『俺はバイクと放課後に』(徳間文庫)

 バイクと温泉が大好きな赤木一は、バイク仲間の同級生と出かけた温泉で、やはり同級生で華道の家元のお嬢様・東御枝蓮と遭遇。ある事情から蓮をバイク乗りにした。蓮のクラスの委員長で、ウェイトリフティングの日本チャンピオンの高里朋美も加え、4人でツーリングに出かける。

 こちらの作品もトネ作品同様、ドラマチックな事件は起きない。高校生がバイクを維持することの苦労や、ツーリングの最中のアクシデントなど、ありふれたエピソードを通じて、少年少女の等身大の悩みや喜びが活写されているのだ。なおバイク小説は、意外なほど多くある。今回紹介した3作をステップに、その豊潤な世界に飛び込んでほしい。

■細谷正充
 1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

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