『ちいかわ』なぜSNSで大人気に? 考察を促す、ゆるかわキャラのダークな側面
「なんとかバニア」編以降、リアリティとファンタジーが不穏に同居する衝撃展開を増やしていった『ちいかわ』は、更新のたび考察議論が活発化するファン文化を築いた。この受容面においては、SNS時代に大ヒットを記録した海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』や週刊少年ジャンプのヒット漫画『チェンソーマン』に近い。しかしながら、グロテスクな暴力描写が多い同二作と異なり、『ちいかわ』の味は、やはり前述の「ゆるいかわいさ」、そして「プリミティブな挙動の表現」にある。ナガノ氏は、インタビューにおいて「何かメッセージを伝えたかったり、重いテーマを描いているというよりは、何かが起こった時の反応や表情を描きたいという気持ちの方が強い」と明かしている。その創作姿勢は、インスピレーションに不条理シュールな吉田戦車作品、そして「淡々とした雰囲気の中にドキドキ感がある童話や絵本」が挙げられていることからもうかがえる。「ゆるいかわいさ」、それに躍動を与える描写がキープされているからこそ、『ちいかわ』は「ダークな考察人気」と「キュートなキャラ人気」を両立させるSNSヒットIPになりえたのではないだろうか。
単行本第2巻も刊行予定の『ちいかわ』は、今現在も世界観を広げつづけている。2021年1月24日回では「こわいやつ」の討伐成績ランキングなるものが存在し、その上位ランカーたちがちいかわたちから多大な尊敬を集めていることが発覚した。単行本第1巻の描き下ろし漫画では、上位ランカーの一人であるラッコさんが車で移動できる社会的地位であることが明かされるほか、気配り上手のハチワレを「いい筋をしてる」として評価する場面も挟まれる。名台詞「いい目をしているな」で知られる『機動戦士ガンダム』のキャラクター、ランバ・ラルの面影すら漂わせるラッコさんの存在が指し示すのは、本作がスリラーやファンタジーのみならず王道バトルアクションジャンル要素すら備えはじめていることだ。キャラクターコンテンツとしても漫画作品としても底知れぬポテンシャルを孕む『ちいかわ』。今後とも、その進化から目が離せない。
■辰巳JUNK
平成生まれ。おもにアメリカ周辺の音楽、映画、ドラマ、セレブレティを扱うポップカルチャー・ウォッチャー。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)
note:https://note.com/ttmjunk
Twitter:https://twitter.com/ttmjunk