爪切男×燃え殻が語る、悲喜こもごものアルバイト体験 「仕事が楽しいなんてアブノーマルな性癖ですよ」

爪切男×燃え殻が語る、悲喜こもごものアルバイト体験 「仕事が楽しいなんてアブノーマルな性癖ですよ」

仕事が楽しくないことなんて、みんなわかっている

燃え殻:爪さんは、たとえば今回なら「お仕事」みたいな感じで、しっかりテーマを絞って書くじゃないですか。それなのに毎回すごくバラエティに富んでいて、すごいなと思っていました。「SPA!」で同時期に連載していたこともあり、いつも刺激を受けていましたね。

爪切男:俺は俺で、燃え殻さんが羨ましかったです。俺は過去の話ばかりだけれど、燃え殻さんは最近の出来事をさらっと面白く書くじゃないですか。その芸は燃え殻さんくらいの書き手じゃないと成り立たないとわかってはいるんですけれど、やっぱり羨ましいです。意識が高くて働いていないお友達の話とか、すごく好きです。

燃え殻:オンラインサロン運営側で、早速Clubhouseを使いこなす友達ね。自分らからすると、酸素が薄くてほとんど息が吸えなくくらいの意識の高さなんですよ。

爪切男:燃え殻さんもやってみたらいいじゃない、オンラインサロン(笑)。

燃え殻:むずかしいなあ。

爪切男:いや、燃え殻さんは誰かに誘われたという体で、知らないうちにやっている気がする(笑)。Clubhouseなんかは、近いうちにやっていると思いますよ。たとえば二村さんとかに誘われて一緒にしゃべっている燃え殻さんの姿が目に浮かびます。

燃え殻:あぁ……たしかに薄情な自分の姿が浮かぶ(笑)。まあそれは置いておいて、ともかく爪さんのエッセイは良い意味で雑多で、不幸なところもあるんだけれど安心感があるよね。世の中の有象無象、諸行無常の間に訪れたコーヒータイムのような。「SPA!」の連載が中でも特に好きでした。僕は20年くらい、特に誇りもなく「これで良いのか?」って迷いながら同じ仕事を続けてきた人間で。でも爪さんのエッセイはそういう人間に対しても「別にいいんじゃない?」って言ってくれているような感じがして。「SPA!」ではよく「40代の貧困」みたいなテーマの特集をやってますよね。僕はそれを自分ごととして読んでいるんですけれど、そういう中に爪さんのエッセイがあったのは救いでした。なんとか「今日もがんばろう」と思えるんですよ。

爪切男:不幸なことをそのまま書くんじゃなくて、できるだけポップに、笑ってもらえるようには意識していました。だって、ほとんどの仕事が楽しくないことなんて、みんなわかっているじゃないですか。

燃え殻:意識高い人とかは、「仕事は“楽しい”から始まる」なんてキャッチコピーを太字でプロジェクターに映していたりしますけれど、仕事が楽しいなんてアブノーマルな性癖ですよ。金あげるからやってくれ、と言われる頼みごとってよっぽどですよ。その中でも小さな楽しみをみつけて成り立たせていくしかない。

左『夢に迷って、タクシーを呼んだ』、右『働きアリに花束を』

爪切男:そうそう、『働きアリに花束を』は仕事の話ばっかり書いているから、まるで俺が働き者のように見えるかもしれないけれど、別にそこまで頑張っていたわけでもないですからね。普通に仕事をサボったりもするし、ふざけたりもする。この本の前に出した『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)では、仏教の中道の教えーー頑張りすぎてもいけない、怠けすぎてもいけない、人間は自分にとっての「ちょうどいい」ぐらいで生きるのが大事ーーについても書いているんですけれど、これまで様々な仕事をしてきて、俺は自分にとっての中道を探ってきたのかなとも思うんです。作家としては、まだ締め切りの「ちょうどいい」がわかっていなくて、みなさんに迷惑をかけていますけれど(笑)。

燃え殻:行きすぎない、でもブレーキをかけすぎないというバランスは、簡単なようで難しいですよね。その塩梅って、たぶん仕事によっても違うし。僕たちなんて、アクセル踏みすぎて崖から落ちて、いつバイトに逆戻りしてしまうかもわからない仕事じゃないですか。だけど爪さんのエッセイを読むと、それもまた良しだなと思えてしまう。

爪切男:車は普通ブレーキで止めるものだってわかってるけど、いろんな仕事や経験をすると、他にも止め方があるなって学びますよね。俺の車の止め方なんて、基本的にブレーキが利かなくて、仕方ないからガードレールにぶつけて止めているみたいな感じですからね(笑)。

燃え殻:ぶつけないと止まらない時も生きてるとあるよね。

爪切男:ありますね。でも、ぶつけてしまっても良いんですよ。世の中には、過去に罪を犯しても、そこから学校の先生になるという自分の夢を叶えたミラクルな奴だっていますから。本にも書かれてるうちの親父ですけど。それに、俺みたいに醜くも楽しく生きている奴がいると、みんな多少は安心するでしょう? 

燃え殻:そうですよね。僕も人にそう思ってもらいたいです。だから、できる限り自分の抑えられない性欲を晒していかないと。最近、ビデオボックスに通えていなくて、逆にダメだなって思います。

爪切男:燃え殻さんの性欲の話は別に言わなくていいですよ(笑)。

後編【燃え殻×爪切男が語る、諦めながら生き残る方法】に続く)

■書籍情報
『働きアリに花束を』
爪切男 著
発売日:3月19日
定価:1210円(本体1100円+税)
出版社:扶桑社
https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594087579

『夢に迷って、タクシーを呼んだ』
燃え殻 著
発売日:3月 23日
定価:1650円(本体1500円+税)
出版社:扶桑社
https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594087739

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