『鬼滅の刃』愈史郎こそ鬼殺隊勝利への立役者だーー大切な人への愛が繋いだ希望
※本稿には、『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)の内容について触れている箇所がございます。原作を未読の方はご注意ください(筆者)
『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)の第2巻、愈史郎(ゆしろう)というキャラクターが初めて物語に登場した時、どちらかといえば謎めいた美女・珠世の添え物のような存在だった彼が、のちに、鬼殺隊と鬼たちとの最終決戦の場――無限城であれほどまでの活躍を見せることになろうとは、(作者以外の)誰にも予想はできなかっただろう。というよりも、ある意味では、彼の奮闘と異能(後述する)なしには、鬼殺隊の勝利はなかったといっていい。
かつて重い病にかかっていた愈史郎は、医術に精通した珠世の手で鬼になったという過去を持つ。珠世の正体は鬼――それも、自らの身体を改良することで鬼舞辻󠄀無惨(注1)の呪いから逃れることができた稀(まれ)な鬼なのだが、愈史郎を鬼にする前にこう問いかける。
注1……「最初の鬼」にして、鬼殺隊にとって倒すべき敵の首領。
生きたいと
思いますか?
本当に
人でなくなっても
生きたいと
(中略)
人でなくなることは
…つらく
苦しい
(『鬼滅の刃』3巻[集英社]より)
数百年前、鬼舞辻󠄀無惨によって鬼にされた珠世は、夫と子供を殺(あや)めてしまい、そのことで自暴自棄になり、さらに大勢の人間を殺してしまったのだという。だが、やがて人の心を取り戻し、自責の念に苛(さいな)まれながらも無惨を抹殺するための研究を続けているのだが、気が遠くなるような長い時間を生き続けている彼女は、「人でなくなる」ことの“つらさ”と“苦しさ”を充分知っているのだ。
それでも、愈史郎は生きていく道を選ぶ。おそらく、病の治療を受ける過程で、珠世の美しい心に触れてしまったがゆえに……。
そう――愈史郎にとって、珠世という女性は絶対的な存在であり、恋愛の対象というよりは(もちろん、恋焦がれてはいるのだが)、むしろ菩薩のような、崇拝すべき心の支えだといっていい。彼は、彼女とともに永遠の苦しみに耐えていく覚悟を決めたのだ。
そんな愈史郎の“血鬼術”は、主に視覚に関する能力である。「紙眼(しがん)」と呼ばれるその異能は、眼の紋様(もんよう)が描かれた札を貼ることで血鬼術の動作を可視化したり、札を貼った者同士の視覚を共有させたりすることができる。また、“目隠し”の術で、建物や人の気配・匂いを隠すこともできる。
先にも述べたように、この彼の血鬼術が、最終決戦の場・無限城、そして、その後の地上での無惨との戦いにおいて、鬼殺隊の勝利のために大いに貢献することになる。