料理は“女性”の武器か? 『料理なんて愛なんて』が問いかける、料理=愛情の呪縛

料理=愛情の呪縛『料理なんて愛なんて』

 渋谷センター街の入り口にある大盛堂書店で書店員を務める山本亮が、今注目の新人作家の作品をおすすめする連載。2021年第2回目は、女性にとって何かと「できた方いい」と言われがちな“料理”をテーマに描かれた佐々木愛『料理なんて愛なんて』を紹介する。佐々木は「ひどい句点」で2016年にオール讀物新人賞を受賞し、同作を収録した短編集『プルースト効果の実験と結果』(2019年)でデビューした。本作が初長編作品だ。(編集部)

 この一年、料理書を購入する20代のお客様が多くなった。以前は今の季節だと、新生活を迎えるための「節約レシピ~」や「基本の~」などといった種類のものを手に取っている方が多かったが、最近では様々な国の料理・食材だけではない、例えば包丁の種類や使い方が掲載されている本を読んでいる方も目に付く。もちろん考え方の変化やコロナ禍の影響もあるかもしれないが、それだけが理由ではない気がする。

「家庭料理」のジャンルを確立した一人でもある小林カツ代の人生を活写した評伝(撮影:山本亮)

 そう感じながら店頭の光景を見ていたら、『小林カツ代伝』(文春文庫)という本を思い出した。この本は「家庭料理」のジャンルを確立した一人でもある小林カツ代の人生を活写した評伝だが、中でも彼女が料理に目覚めたのは大阪の商家の箱入り娘として育った結婚後だという記述がとても印象に残っていて、その事はなにかを始めるのに早い遅いは関係ない、という勇気をいつも教えてくれる。

 そして、彼女の一番の魅力はなんといっても、独特な感性と合理性に裏打ちされた行動力。最初は味噌汁も作れないところから始まり、慣れない家事や子育てをしながら新しいレシピを考え、あの伝説の『料理の鉄人』などテレビ番組にも出演し、思い切りよく仕事をこなしていくのは、世代を越えて感じる格好良さがある。2014年に他界した後でも店頭に彼女のレシピ集が陳列され続けているのは、様々な舞台で調理の純粋な楽しさを表現してみせた人生に、惹かれる方が多いからではないか。 

 しかし、一方で料理をすることを負担に感じる人も、もちろんいる。特に女性だから料理が出来て当たり前、料理は愛情、というバイアスは確かに存在する。今回はその圧力の中にいる女性を描いた佐々木愛『料理なんて愛なんて』を紹介したい。

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