「好きを仕事にする」は既にバイアスに囚われているーー『科学的な適職』が示す、後悔のない職業選択
【天職/Vocation・calling】という言葉がある。そんなものに就いてみたいと乞い願う人も多いかもしれないが、人生でそれに巡り会う人は極わずかであろう。そして語源を辿れば、いずれも人智を越えたものにより、職こそが人を呼び寄せることに由来する。よって、そこに個人の選択の余地はない。では、私たちが可能な限りの【適職】を求めるにはどうしたら良いのであろうか。書籍『科学的な適職 4021の研究データが導き出す、最高の職業の選び方』では、豊富な科学的事例を元に、キャリア選択における後悔のない意思決定方法を読者に示してくれる。
まず読み進めると、もとより人間の脳は自らに適した職を選ぶ構造を持ち合わせていないという。なぜなら、人類は進化の過程において、生存するためにはその選択を行う習慣はなかった。つまり、狩りや採集の時代に始まり、職業選択に制約があった近代に至るまで、私たちの祖先の多くはこの問題に悩んでは来なかったというわけである。
確かに、先人たちも常に当時の現代人であり、先の見えない未来への不安と希望を胸に生きていたとはいえ、これほどまでの多様な選択肢を前に生きるのは私たちが初めてなのである。
では、自らの未来を拓くための意思決定には何が必要なのか。本書では
[職業選択にありがちな7つの大罪]
[仕事の幸福度を決める7つの徳目]
[最悪の職場に共通する8つの悪]
と、それぞれキャリア選択において向き合うべきテーマに解説を加えていく。
それぞれのテーマは「好きを仕事にする」「性格テストで選ぶ」等、どれも人が悩み陥りやすいもので、ステップを踏み選択する過程を追っていくが、全体を通して説かれているのは、とにかく私たち人間が自らの問題について考える際、常につきまとう主観へいかに対処するかということだ。ある仕事が「好き」「合う」と考え始めたときから、人は既にバイアスに囚われている。自分の意向に有利な情報ばかりに目がいき、問題への関わりが大きければ大きいほど、その罠に嵌まってしまうのは誰しも覚えがあることだろう。