早くも2021年ベスト級のラノベ登場? 『ダンまち』輩出のGA文庫大賞、金賞作品がすごい

GA文庫大賞から早くも年間ベスト級登場

 大森藤ノによる『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』を送り出したライトノベルの新人賞「GA文庫大賞」は、スニーカー大賞やファンタジア大賞、電撃小説大賞と比べて歴史は半分に満たないが、読ませるライトノベルを見つけることにかけては負けていない。

 最新の第12回GA文庫大賞で金賞となった2作、宇佐楢春『忘れえぬ魔女の物語』と小田一文『貴サークルは“救世主”に配置されました』は、共に独創性にあふれた設定や展開で、1月刊行ながら早くも2021年のベストに推したくなる出来だ。

 谷川流の『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズを原作にしたテレビアニメで、夏休みの2週間を描いたエピソードが、8回にわたって繰り返された「エンドレスエイト」に覚えた困惑が、蘇ってくる作品とでも言おうか。『忘れえぬ魔女の物語』のことだ。

『忘れえぬ魔女の物語』(GA文庫)
『忘れえぬ魔女の物語』(GA文庫)

 高校生になった相沢綾花は、入学式の日に同級生の稲葉未散と初めて出会い友達になる。そして翌日も、その翌日も未散との初めての出会いを繰り返す。実は、すべて同じ4月6日のできごと。生まれたときから綾花は、同じ1日を複数回、平均すると5回ほど繰り返してから、次の1日へと進む人生を過ごしてきた。

 面白いのは、最後の1日が選ばれて翌日へと続くのではないこと。テストで悪い点をとってしまったからといって、勉強し直してループした日で良い点をとり続けても、失敗した最初の日が選ばれる可能性もあった。幸いにして綾花と未散が出会わない4月6日はなく、2人は仲良くなれたが、そこに悲劇が訪れる。

 どういう種類の悲劇だったかは読んで確かめてもらいたいが、言えるのは、選ばれない日もあるとはいえ、なまじループという逃げ道が用意されていたばかりに、それが訪れない時の絶望感にはすさまじいものがあるということ。一方で、1度きりなら諦めがつくだろう状況から、諦めるきっかけが奪われてしまったときに、人はより深い絶望感に苛まれるということだ。

 8週間、同じような展開が描かれ続けたことに、困惑と焦燥を覚えた「エンドレスエイト」を、遙かに上回る時間の牢獄に閉じ込められた綾花を通して、1度きりの時間が持つ価値を考えてみたくなる。もっとも、無限の絶望に折れない綾花の、未散に対する恋情の強さには驚くばかり。宮澤伊織の『裏世界ピクニック』シリーズでも取りざたされる、“百合SF”的な要素が、より重く濃いものとなって漂う。

 とはいえ、それでも突破できない牢獄から抜け出すための道がまるで見えない。どうにか乗り越えてエンディングを迎えた先が、4月刊行の続刊でどうなっていくのかも分からない。読んでいても読み終えても気持ちをとらえづける作品だ。

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