早くも2021年ベスト級のラノベ登場? 『ダンまち』輩出のGA文庫大賞、金賞作品がすごい

GA文庫大賞から早くも年間ベスト級登場
『貴サークルは”救世主”に配置されました』(GA文庫)
『貴サークルは”救世主”に配置されました』(GA文庫)

 時のループという設定は、偶然なのか第12回GA文庫大賞で同じ金賞となった小田一文『貴サークルは”救世主”に配置されました』にも使われている。主人公は星夜騎士(スターナイト)というペンネームの同人作家だが、即売会で1冊売れれば万々歳という零細ぶり。それがいきなり、100冊完売を達成しなくてはいけない状況に叩き込まれる。

 原因は、聖夜騎士を救世主と呼んで近づいてきた時守緋芽という女子高生の存在。実は魔王と戦ってきた戦士で、滅びの運命に挑んでは敗れ、滅亡エンドを迎えてから時を遡り、また挑んでは敗れる繰り返しを続けてきたという。最新のループ時に、星夜騎士こそが世界を救う救世主であるという予言を得て訪ねて来たが、そこに、同人誌を100冊売らなければ魔王によって世界が滅ぼされるという予言が新たにもたらされる。

 世界の存亡と同人活動が天秤にかけられるギャップがおかしいが、世界が滅亡してしまうとあっては笑ってもいられない。緋芽が編集者のような立場で、星夜騎士に売れる同人誌を描かせようとする『バクマン。』的な展開が繰り広げられる。

 人手が足りないからといって、背景が白いままでは手抜きと思われてしまうとか、認知度を高めるために1日3回、SNSにイラストをアップしてアピールしろとかいった緋芽のアドバイスが実に的確。もっと売れるカップリングにしろとまで言ったが、こればかりは描き手の信念に関わることだから星夜騎士も絶対に譲れない。カップリングは神聖にして冒すべからざるものなのだ。たとえ世界が滅びたとしても!

 それでも、やはり滅亡は避けたいところ。同人誌は果たして100冊売れるのか。頑なに守ったカップリングが意味を持ちそうな予感も漂うエンディングから先、星夜騎士が真の救世主として脚光を浴び、1000冊だって売り切る壁サークルへ近づくために何をするかをぜひ見たい。売れる同人誌づくりの参考にもなるし。

 今回は金賞が最高だったように、GA文庫大賞はなかなか大賞が出ないコンテストで、第4回の『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているか』が初めて獲得してからしばらく、該当作がなかった。それだけに、第11回で7年ぶりとなる大賞を獲得した佐藤真澄『処刑少女の生きる道(バージンロード)』には注目が集まった。

『処刑少女の生きる道(バージンロード)』(GA文庫)
『処刑少女の生きる道(バージンロード)』(GA文庫)

 その世界では、日本から転生して来た「迷い人」たちが、純粋概念と呼ばれる異能で大災害をもたらす存在として疎まれていた。そうした迷い人を処刑し続けてきた少女メノウが、アカリという名の迷い人も同様に始末しようとするが、アカリは不死身で殺せなかった。メノウはアカリと連れだって旅をしながら、アカリの異能を打ち破って殺す方法を探す。

 巻を重ねる中で、同道する中で育まれるアカリへの心情にメノウが苦悩する姿や、不死に見えるアカリが、密かに繰り出している異能の苛烈さが見えてきて、物語世界に引きずり込まれる。2月10日には第5巻も出て、処刑少女としてメノウが重大な決断を下す。『ダンまち』シリーズと同様に、デビュー作でありながらアニメ化も決定しただけに、これから大ブレイクが期待できそうだ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書籍情報
『忘れえぬ魔女の物語』(GA文庫)
著者:宇佐楢春
イラスト:かも仮面
出版社:SBクリエイティブ
https://ga.sbcr.jp/sp/wasumajo/index.html

『貴サークルは”救世主”に配置されました』(GA文庫)
著者:小田一文
イラスト:肋兵器
出版社:SBクリエイティブ
https://ga.sbcr.jp/sp/kicircle/index.html

『処刑少女の生きる道(バージンロード)』(GA文庫)
著者:佐藤真登
イラスト:ニリツ
出版社:SBクリエイティブ
https://ga.sbcr.jp/sp/virginroad/index.html

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