YouTube発の「小説」が若者に人気 『なぜ銅の剣までしか売らないんですか?』など話題作続々
ファンタジーのお約束へのツッコミ――エフ『なぜ銅の剣までしか売らないんですか?』
いわゆる「Fラン大学」出身の「エフ」が就職活動、労働、ビジネスなど、キャリアに関連するおもしろ動画を作っている「Fラン大学就職チャンネル」(2016年開設、チャンネル登録者数17.5万)が刊行した『なぜ銅の剣までしか売らないんですか?』(実業之日本社)も21年1月末に発売されて話題を呼んでいる。
本作ではRPGのお約束にツッコミを入れていく。なぜ最初の街には『銅の剣』までしか売ってないのか。なぜどの街でもアイテムの売値と買値が決まっているのか。そうした世界の"不自然"で"不自由"なルールに気づいたマルは、その制度を変えるため、ルールを仕切る商人ギルドの本部を目指す旅に出るが、そこで世界の真の仕組みと為政者の意図を知る。
読書好きの泥酔YouTuberにゃんたこが描く「奇妙な味」のポップ文学
32万人以上のチャンネル登録者数がおり、「文学的世界観」があると評されているYouTuber「にゃんたこ」が21年1月に刊行した『世界は救えないけど豚の角煮は作れる』(KADOKAWA)にはエッセイだけでなく短編小説も収められている。
短編小説では「男がいた。男は宇宙人と話せるのだと言った。男は愛が見えるのだと言った。そして宇宙からの使者は、愛ゆえに私たちの地球を滅ぼすのだと言った。男は空に浮かぶという大きな円盤に向かって歩いていった」と始まる「いつくしみをたたえて」など2編が収録されており、いつもストロングゼロをあけては酩酊しているにゃんたこらしい奇妙な味の短編になっている。
YouTubeはストーリー/IPの揺り籠になった
以上、ジャンルはラブコメ、ホラー、ファンタジー、純文学(?)とさまざま、年齢層も小学生から大人(といっても20代くらい)向けのものがすでに生まれている。
今後「YouTubeでオリジナルストーリーを発表できて収益化できる」ことが広く認知されていけば、もっと多様な作品がつくられていくだろう。いまやYouTubeはいわゆるYouTuberがつくるバラエティ動画だけでなく、物語やIPを生み出す母体となっている。
■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。