ラスト数ページで涙腺崩壊……ネコの「わたし」が経験した「げぼく」との日常

ラストで涙腺が崩壊……ネコとげぼくの日常

 そうした思い出が濃い分、どうしても想像してしまうのが、いつか来る別れの時のこと。本作には、その悲しみもしっかりと描かれている。家に来て18年もの月日が流れたある日、「わたし」は思う。

わたしはとても、かしこいネコだ。ゆえに、としをとったらどうなるのかはしっている。わたしはもうすぐ、しぬのだろう。

 命の終わりを悟った「わたし」は、げぼくにある約束をするのだが、そこからの数ページは涙なくしては読めず、気づくと愛猫をギュっと抱きしめていた。

 自分とは違い、どんくさくて泣き虫なげぼくを、どれほど「わたし」は大切に想っていたのか……。それがラスト数ページに描かれている手紙から伝わってきて、胸が締め付けられた。そして、その手紙は「愛猫の死をどう受け止めるか」という、長年の悩みを解決してもくれた。

 飼い主にとって、喜怒哀楽を共有してきた愛猫との別れほど怖いものはない。一緒に過ごした時間が長く、思い出が濃いほど、その気持ちは強くなるもの。筆者も時々ふと、「もし、この子たちがいなくなったら……」と考え、泣いてしまうことがある。いつか来る “その日”の受け止め方に、私たち飼い主は悩んでいる。本作は、そんな私たちに肉体が亡くなっても、ずっとげぼくでいてもいいという答えを授けてくれているように思えた。

 共に泣き笑い、たくさんの「かわいい」を贈った日があったことは、愛猫が旅立ってもかわらない事実。死という現実は苦しいが、これまで築き上げてきたものがゼロになるわけじゃない。いつか同じ世界に行った時にまた優秀なげぼくとして役に立てるよう、忠誠心を磨き続けながら、ずっと愛猫の下僕でいてもいいのだ。

 そう思わせてくれる本作は、猫を迎えた日や共に暮らしている最中、そして別れを経験した時と、何度も手に取りたい一冊。

すこしくらいはもてなしてやるから、こちらのせかいでわたしとあうのを、たのしみにしているがよい。

 いつか来るその時、自分も愛猫にこう言ってもらえるようなげぼくであり続けたい。

■古川諭香
1990年生まれ。岐阜県出身。主にwebメディアで活動するフリーライター。「ダ・ヴィンチニュース」で書評を執筆。猫に関する記事を多く執筆しており、『バズにゃん』(KADOKAWA)を共著。

■書籍情報
『わたしのげぼく』
著者:上野そら
絵:くまくら珠美
出版社:アルファポリス

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