よしながふみ『大奥』いよいよ最終巻へ 男女逆転の大河ロマンはどう着地する?
慶喜の人物像
本作の終盤に不穏な雰囲気が漂うのは、最後の将軍慶喜が無神経な人物として描かれているからである。
14巻ですでに当時の将軍家定は慶喜をこう評している。
“慶喜には心が無いのだ
国の民や家臣を思う心が無い者は
どんなに聡くても
将軍にはふさわしい器の者ではない!”
子どもがいないまま家定が急死し次の将軍になった家茂は、慶喜の行動や彼に不信感を募らせる天皇の姿を見て思う。
“あれほど皆に待ち望まれたお方なのだから
きっとこの国の民のために力を尽して下さるだろうと
きっとそう思って だから私は
けれど”
前将軍二人の不安は、18巻終盤に現実になる。
『大奥』は第3代将軍家光に始まり、江戸幕府の終焉と共に終わることはわかっていたので、最後の将軍となる慶喜は「素晴らしい人物」だと14巻を読むまではほとんどの読者が想像していたのではないだろうか。『大奥』は予想が覆る展開が見どころだが、慶喜の性格はその最たるものだと言って良いだろう。
そして最終巻に向けての身分制度の緩やかな変化も注目するべき点だ。例えば武士が通りかかっても気にせずに「ええじゃないか」踊りを続ける町人たちにそれが表れている。
大奥には第5代綱吉の時代には三千人もの美男が集まっていた。ところが第13代家定の時代になると「行き場のない男たちのふきだまり」といった扱われ方をされている。これも『大奥』中盤までは考えられなかった状態だ。
完結後、1巻から読み返すことによって長い江戸時代の変化をも感じ取れるのだ。
家定に会見した後、生涯大奥に足を踏み入れることのなかった唯一の将軍慶喜。彼と大奥との関わり、そして大奥の終焉がどのように訪れるのかが19巻の見どころになるはずだ。
■若林理央
フリーライター。
東京都在住、大阪府出身。取材記事や書評・漫画評を中心に執筆している。趣味は読書とミュージカルを見ること。
■書籍情報
『大奥(18)』
よしながふみ 著
定価 : 本体680円+税
出版社:白泉社
公式サイト