「あれじゃ去勢された牛」「不潔な雑巾の匂い」……『美味しんぼ』栗田ゆう子の“毒舌”を検証

『美味しんぼ』栗田ゆう子の毒舌を検証

 『美味しんぼ』の主要人物で、「唯一の良心」とも称される栗田ゆう子。作品になくてはらないキャラクターだ。そんな栗田だが、作品のなかで似つかわしくない毒舌を放つことがある。今回そんな彼女の思わずドキッとしてしまう発言を検証したい。

「山岡さんはえっらーそーに能書きたれているだけ」

 銀座一の寿司屋と謳われる「銀五郎」を訪れ、主人の銀五郎が客を叱りつけるなど、奔放な振る舞いをしている様子を見て激怒した山岡士郎。東西新聞社の大原社主、文化部の一部メンバーと銀五郎と共に東京佃島の「しんとみ寿司」を訪れ、店主の富二郎と勝負させる。握った寿司を目隠しで食べると、全員が「富二郎の寿司が美味しい」と判定した。

 山岡は「まずい理由を見せる」と、病院に行き、CTスキャナで寿司を撮影したうえで、違いを指摘。そして、「これでわかったか、お前寿司のまずいわけが。驕り高ぶった心で握ればシャリもガチガチに固まってしまうんだ」と一喝する。

 その後しんとみ寿司で寿司を食べ直すことになった東西新聞社一行。大原社主が「銀座一と言われた富二郎がこんなところに……」と驚くと、富二郎は「心のこもった商売をしたかった」と理由を語る。栗田は「おじいさんに握ってもらっていると心がくつろいで楽しい気持ちになる。お寿司って心なのね」と笑った。

 これを聞いた山岡は、「寿司だけじゃない。食い物はみんな心さ。究極のメニューなんていうが、その心をどう表そうっていうのか。表せってんだ」とうそぶく。

 すると栗田は山岡に出された寿司を横取りし、「山岡さんはここのお寿司食べる資格ないわね」と怒る。さらに「おじいさんは真心を握ろうと一生かけてやってるわ。なのに、山岡さんはどう? ぐーたらで何もしないでえっらーそーに能書きたれてるだけじゃないの」と非難する。山岡は反論せず、その話を黙って聞いていた。(1巻)

 会社入りたての栗田が、グータラといえども、先輩の山岡を反論の余地なく責め立てる。恐ろしい度胸を持つ「キラー栗田」が初めて発揮された記念すべき回だった。

「あれじゃ去勢された牛」

『美味しんぼ』(6巻)

 スポーツ雑誌の依頼でプロ野球の二軍キャンプを回り、食についてアドバイスすることになった山岡と栗田。宮崎県内のステーキ店で、メジャーズのオーナーに課題を話すことになる。店では海原雄山がオーナーと会食しており、山岡も混ざる形に。そこで出された肉がまずく、山岡はその理由を説明するが、雄山は「肝心なことを見落としている」と指摘し、翌日仕入先の牧場に来るよう指示した。

 牧場で山岡は牧場の牛が全て去勢された牡であることを見落とし、雄山に「牡牛の肉は味が落ちる。牛の牝牡の違いは味に徹底的な違いを与えるものなのだ」「究極のメニューには牛肉料理がないのか」「お前は食い物の世界では二軍以下だということがわかった」と叩きのめされてしまう。

 数日後、協力したスポーツ雑誌の編集者が山岡にメジャーズ対レパーズのボックスシートチケットを持参して文化部に現れ、「オーナーは山岡さんの忠告に感謝しているんですよ」とチケットをプレゼントしようとする。元気のない山岡はチケットを見ようともせず、新聞を見たまま「欲しい人にあげるよ」とポツリ。編集者が「山岡さん、あのときのことでまだ……」と心配そうにしていると、栗田は「ま、あんなことをいつまでも気にかけているようでは去勢された牛ね」と話した。(6巻)

 憎しみを持つ雄山にやり込められてしまっては、山岡の気分が落ちるのも無理はないものなのだが、栗田は「あんなこと」「気にかけているようでは去勢された牛」と強靭な切り替えの早さと強いメンタルを披露。さすが、新人で東西新聞社の大きな事業を任される大物で
ある。

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