よしながふみ『大奥』いよいよ最終巻へ 男女逆転の大河ロマンはどう着地する?

『大奥』最終巻発売直前、見どころは?

女将軍の始まり

『大奥(1)』

 読者に衝撃を与えた男女逆転『大奥』がとうとう完結する。2004年の連載から最終巻直前まで特徴を振り返ると共に、終盤〜最終巻の見どころを探っていきたい。

 『大奥』は、「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」という奇病の蔓延から始まる。この病は若い男性、時には青年期以降の男性にも感染し、死をもたらす。赤面疱瘡によって男性人口は大幅に激減し、とうとう三代将軍徳川家光も死んでしまった。

 史実では、家光は46歳で亡くなっているが、本作ではそれよりも早い段階で命を落としている。家光の治世は、戦国時代からさほど離れていない。

 家光の乳母・春日局は死と隣り合わせの戦国時代を生き抜いた女傑である。世継ぎのいない家光の死が公になれば、徳川幕府は途絶え、再び争いが絶えない世の中になってしまう。

    また春日局は、家光が街で女性を襲い妊娠させ、娘が生まれたことを知っていた。彼女はその娘を徳川家光の傀儡にすることを思いつく。

 これが『大奥』における女将軍の始まりである。

家光以降の将軍

 『大奥』の凄さは、フィクションでありながら、現代人が文献などで振り返ると史実と変わらないように物語が練られている点である。本当にあったことなのかもしれないと想像しながら楽しむこともできるのだ。

 例えば第11代将軍家斉は53人、次の第12代将軍家慶は27人子どもがいた。これは女将軍なら産むことができない不自然な数である。そのため『大奥』では第10代将軍家治の時代に「赤面疱瘡」の予防接種を成功させ、家斉の母をサイコパスとして描き関係者を始末させている。ところが将軍の子だくさんは幕府の財政を圧迫する。そのため、生涯子どもを成さなかった第13代将軍家定は、家慶の息子ではなく娘になった。2代続いた男性将軍はいったん終わり、第13代、第14代は再び女将軍の時代になる。

 すなわち『大奥』では子どもの多い家斉と家慶、そして写真の残っている江戸幕府最後の将軍慶喜の三人は男性将軍だが、家光以降の他の将軍はすべて女性なのである。

将軍たちの悲しみ

 将軍の人生を悲しいものとして描いていることも『大奥』の特徴だ。父の傀儡となった女の家光は愛する側室と子を作れず、他の側室を持つことを強いられる。その長女である第4代将軍・家綱も愛する人とは結ばれず、三女の第5代将軍・綱吉は愛娘を亡くした後、新たな世継ぎを作らなければならなかったが叶わないまま生涯を閉じる。

 当時は後継者争いを起こさないために、すべての将軍にとって子どもを持つことは義務だった。当時の出産は今以上に命がけであり、実際に体が弱いにも関わらず子どもを産み寿命を縮めた将軍もいる。子どもができなければ愛する人と添いとげることもままならない。

 将軍の跡目争いも熾烈を極めた。吉宗が将軍に就くまでに吉宗の姉たちを含む四人の女性が殺されている。名君と称えられた第8代将軍吉宗ですら、執政がすべて成功したとは言えず、後継者問題に悩まされた。

 吉宗の長女は第9代将軍家重である。彼女は生まれつき障害があり妹たちや臣下から馬鹿にされ無能な将軍と呼ばれた。家重が可愛がっていた娘家治は、家重の死後将軍職を継ぐが謎の死を遂げる。

 その後の将軍たちも権力を持つことと引き換えに苦難を耐え抜かなければならなかった。

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