元ニートの登山家・栗城史多はなぜ無謀な挑戦を止められなかったのか? 「冒険の共有」という言葉の代償

元ニートの登山家・栗城史多はなぜ無謀な挑戦を止められなかったのか? 「冒険の共有」という言葉の代償

 第18回開高健ノンフィクション賞を受賞した『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』は、2018年5月に8回目のエベレスト登頂の挑戦中に滑落死した故栗城史多をテレビディレクターである著者が追ったノンフィクションだ。

 「冒険の共有」を掲げ、「元ニートの登山家」「単独無酸素」といった言葉でエベレスト登頂を続けた“登山家”。インターネットを通じて高所登山を現地から配信していた彼をご存知の方も多いだろう。彼の活動は有名になればなるほど批判の声も強くなっていった。“単独無酸素 七大陸最高峰登頂”を掲げた彼がなぜ批判や行き過ぎた「誹謗中傷」まで浴びるようになったのか。

 リアルタイムで彼の挑戦を知っていたものの、登山専門誌などで取り上げられることはほとんどなかったために登山界から距離を置いている人だと思っていた。またインターネットから得られる情報から「単独」、「無酸素」といった彼が掲げていた看板も眉唾であろうとも感じていた。そして泣きながら登山をする様子や、登山家特有のストイックさを感じられない無邪気な彼の雰囲気を見て、これは「周囲の悪い大人たちにそそのかされているのだろう」と勝手に同情をしていた。しかしそんな彼のイメージも本書でガラリと変わってしまった。正直なところ、彼も含めてその周囲を取り巻いていたグロテスクな様相に暗澹たる気持ちになったのが本書の感想だ。

山を劇場に変えたエンターテイナー。不況のさなかに億を超える遠征資金を集めるビジネスマンでもあった。しかし彼がセールスした商品は、彼自身だった。その商品には、若干の瑕疵があり、誇大広告を伴い、残酷なまでの賞味期限があった。(p.8)

 栗城史多を“登山家”と素直に呼ぶには些か躊躇してしまうことになるだろう。彼独学の栄養学では“重たい筋肉は登山家にとって妨げにしかならないので肉は食べない”と言うものの、実際は疲労回復に効果的なビタミンB1を豊富に含む肉(豚肉)はむしろ最適な食材だという。またトレーニングにおいて加圧トレーニングを行っているが、テレビで藤原紀香がやっていたのを見たからだという。これを愛嬌と見るか浅はかと見るかは人それぞれであるものの、やはり登山、しかもエベレスト登頂を「単独」「無酸素」で登ろうとする人物像としては首をかしげてしまう。

 中でも印象的だったのはマナスル登頂についてだ。彼はマナスル登頂を果たしたが、自身の口からその頂上が「認定ピークだ」という言葉が出る。つまり本当の頂上は別にあるのだが、この地点でも「頂上と言っていい」ということなのだが、本書で明かされるこのエピソードで彼の登山に対しての考え方が残酷なほどに明かにされている。

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