アルコール、ギャンブル、散財……完治なき病“依存症”と向き合うために 『だらしない夫じゃなくて依存症でした』が描く真実

もしかしてと思ったら依存症の現実を知ろう

 2019年1月から4月まで無料でWEB連載されていた、厚生労働省監修の依存症啓発漫画『だらしない夫じゃなくて依存症でした』が単行本としてまとまり、2020年3月に発売された。書籍化にあたり書き下ろしを追加し、巻末に全国の依存症相談窓口を紹介するなど約280ページにもなったフルカラーの今作品はずっしりと重い。

 物語の主軸となるのは、アルコール依存症と診断される夫・山下ショウとその妻・ユリ。大学時代に出会った夫は優しくて社交的で繊細で「フツー」の人だった。就職し働くようになってから、苦手な飲み会に馴染むためにお酒をたくさん飲むようになり、次第に溜まったストレスをお酒で発散するようになった。「飲まないと寝つけない」「いつも飲んでる」「依存症だと認めない」そんな夫はアルコール依存症だろうか?だらしないだけだと思いたいと悩む妻に、薬物依存症から脱した友人やギャンブル依存症を経験した職場の先輩が回復の手立てを指南する。

 筆者である三森みさは、2018年に自身がカフェイン依存症になった体験を漫画にし、WEB公開している。身近な存在であるカフェインだが、三森は多忙な生活を維持するために錠剤で摂取するようになったところ、離脱症状が出るまでになった。その他にもプチ依存の経験があり、書き下ろしではその実体験を描いている。

 今作品が素晴らしいのは、依存症という病気を当事者・家族・職場の人間・友人・依存症経験者など多角的な目をもって考えているところだ。主となるのはアルコール依存症の夫をもつ妻の視点ではあるが、物語が進むにつれ当事者である夫の苦しみも描かれていく。

 作中で、依存症の種類は物質依存(アルコール・薬物等)とプロセス依存(ギャンブル・性行為等)がある、とユリが勤める会社の先輩・武田が教える。武田は以前パチンコに依存し、300万の借金を負った経験のある人物だった。また、ユリの幼馴染であるマユは、美術大学に通いながら薬物に手を出し、中毒で痙攣発作を起こしてしまった過去がある。身近にいて普通に見える2人がパチンコや薬物にハマってしまった経緯、発覚したときの周囲の人間の対応、回復していくためのプロセスなどしっかりとした取材の元描かれる正しい依存症への知識が得られるストーリーになっている。

 「依存症は脳の病気だ」と武田は強調する。物質・プロセスに関わらず、脳が変質し正常に機能しなくなるところは同じだ。つまり依存症は脳が機能不全に陥る“病気”なのである。ガンになればその人の人間性や努力に関係なく治療が始まるように、依存症にも専門家の治療が必要である。しかし依存症により変質した脳を完治させる薬は現段階では存在しない。つまり依存症は完治しないと言われている。完治はないということの恐ろしさと途方もなさと絶望感。その衝撃的でもある事実に向き合い続けなければいけないこと、認める勇気と病気と生きていくというある種の諦念、当事者の覚悟と家族の許しなど、三森は目を離さずに描ききっている。

 完治しないのであればどのように回復していくのかという過程が、今作品のメインテーマとなっている。依存症においての回復は「やめ続ける」ことに尽きる。ただそのやめ続ける”だけ”がいかに難しいものであるかを表現することに、心血を注がれた作品だと感じる。

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