『進撃の巨人』が漫画史に残る傑作である理由 容赦なく“自由の犠牲者”を描く
対して、アルミンたちと平行して描かれるのは「地鳴らし」によって超大型巨人に踏み潰される人々の姿だ。特に印象に残るのが第131話「地鳴らし」。この回は「始祖の巨人」と化したエレンの視点で物語が描かれるのだが、かつてエレンが助けた少年が地ならしによって発生した瓦礫によって足と顔が潰され、巨人に踏まれる姿が容赦なく描かれている。
物語冒頭のエレンの母親が巨人に食われる場面を筆頭に、『進撃の巨人』は「ここまで描くのか!」というシーンの連続だったが、エレンが手に入れた自由の犠牲になって殺される人々の姿も、本作は容赦なく描く。しかも大人ではなく子どもたちが死ぬ姿を描くのだ。
何よりやりきれないのは、(巨人の力で)未来が見えるエレンは、過去にスリとして捕まった子どもたちを助けた時に、将来自分はこの子たちを殺すことになるということを知っていたこと。
仲間を助けるためにエレンは世界を滅ぼす存在になってしまうのだが、その姿を諫山創は美化せず、その選択によってエレンが「子どもを含めた罪のない多くの人々を殺しているのだ」ということを、容赦なく描く。この姿勢は終始一貫しており、だからこそ少年漫画の歴史に残る作品となったのだろう。
果たして諫山は、エレンにどのような結末を与えるのか? 泣いても笑っても残り1巻である。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■書籍情報
『進撃の巨人』(講談社コミックス)既刊33巻
著者:諫山創
出版社:講談社
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