『怪獣8号』が“乗っている”理由 おじさんの再チャレンジが熱い
主人公を若者ではなく、ピークを過ぎたおじさんにしたことで『怪獣8号』には、妙な説得力が備わっている。「怪獣」という設定に、リアリティを持たせるための工夫と言ってしまえばそれまでだが、それ以上に作者の気持ちが、カフカに“乗っている”のが伝わってくる。
作者の松本直也は、「週刊少年ジャンプ」で2009~10年に『ねこわっぱ!』(全2巻)を連載。その後、「ジャンプ+」で『ポチクロ』(全4巻)を2014~15年にかけて連載。どちらも完成度の高い作品だが、短い巻数で終わっている。
カバー折返しのコメントで「5年ぶりの新作。己の全てを叩き込む所存であります!」と松本は書いているが、その意気込みは、32歳になって防衛隊の試験に再び挑むカフカの姿とどこか重なる。漫画に限らず、面白い物語には、作者の人生や生の心境が反映されているものだ。
「怪獣」を筆頭に魅力的なアイデアやキャラクターがふんだんに盛り込まれた本作だが、何より「おじさんのカフカが人生に再チャレンジする物語」として、とても魅力的である。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■書籍情報
『怪獣8号』(ジャンプコミックス)
著者:松本直也
出版社:集英社
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