ジャンプ+の問題作『終末のハーレム』が描く、快楽の果てのディストピア

『終末のハーレム』が描く快楽の果て

 現在、もっとも面白い漫画を生み出している場所の一つは、漫画配信サイトの『少年ジャンプ+』(以下、「J+」)だろう。

 遠藤達哉の『SPY×FAMILY』、賀来ゆうじの『地獄楽』、最近では松本直也の『怪獣8号』といった話題作が次々と生まれており『ファイアパンチ』で注目された藤本タツキが『チェンソーマン』を『週刊少年ジャンプ』本誌で連載するといった流れも生まれている。

 ジャンルやテーマはそれぞれバラバラで、面白ければ何でもありの「J+」だが、そんな配信サイトのカラーをもっとも体現しているのが、LINK(原作)と宵野コタロー(作画)が手掛ける『終末のハーレム』ではないかと思う。

 本作は西暦2040年を舞台にした近未来SFエロ漫画。男だけを死に追いやるMKウィルスによって男が死滅した世界で主人公の水原怜人は目を醒ます。5年前に細胞硬化症に罹患した怜人は、特効薬が開発されるまでコールドスリープに入っていたが、怜人を含めた細胞硬化症を治療した5人の日本人男性にウィルスに対する免疫があることが明らかになる。男たちはナンバーズと呼ばれ、コールドスリープから目覚めると、人類を救うため、複数の女性とメイティング(子作り)することを要請される。

以下、ネタバレあり。

 物語は怜人たちナンバーズの男を主人公にした複数のエピソードが同時進行していく。コールドスリープ以前から好きだった幼馴染の橘英里紗に対する愛情から他の女性との性交を拒み、この世界に違和感を抱くようになっていく怜人。一方、最初に目覚めた火野恭司(ナンバー2)は複数の女性と性行為を楽しむハーレムライフを謳歌していた。そして、いじめられっ子だった高校生の土井翔太(ナンバー3)は、コールドスリープから目を覚ますと、全員女子生徒の高校に編入することになる。そこで恩師の柚希と再会。彼女に誘われるまま初体験を済ませた翔太はその後、学校中の女子生徒から誘われることになる。

 ナンバーズの専属補佐官・神谷花蓮から世界の真相を聞かされた翔太は、この学校がメイティングのために用意されたハーレムだと知り、女子生徒たちと次から次へと性交する。やがて翔太は、自らの特権を駆使し、かつてのクラスメイトでタレントを目指す星野汐音と、自分をいじめていた男の恋人で今は薬物中毒のエリカを屈服させるのだが、思春期の疎外感と女への愛憎が剥き出しとなった翔太の物語が加わることで、物語は一気に面白くなった。

 内気で受け身の男の子がなぜかクラスの美少女たちから次から次にアプローチされ、エッチな場面に遭遇するというのは、近年のエロ漫画の基本フォーマットだが、そんな夢の学園生活が社会によって設計された子作りのために用意された場所だという描き方には批評的な悪意を感じる。

 翔太の行為は、自分を阻害した女に対する復讐であり、その意味で汐音やエリカに対する行為は決して褒められたものではないのだが、翔太が時々かわいそうに思えてくるのは、女たちが翔太を誘惑するのは、子種を授かることで社会的地位を確立するためであり、誰も翔太を同じ人間として扱っていないからだ。

 酒池肉林を謳歌しているようにみえる他のナンバーズたちも、実はこの世界の犠牲者だ。しかし快楽の園にいるため、自分が阻害されていることが自覚できない。そのことがより本作のディストピア感を倍増させる。

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